第四話
「お兄ちゃん、早くしないと遅刻するよ!」
「そう慌てなくても大丈夫だって」
あれから時は過ぎ、俺は今日から中学2年生となる。小学校に通う舞とは途中まで同じ道なので一緒に家を出るのが普通になっていた。
「お兄ちゃん、今年はスキルを貰えるね。お兄ちゃんなら凄いスキルを貰えるよ」
「ダンジョンに潜る事は決まってるからなあ。戦闘に有利な物を貰えたら有り難い。だけど、こればかりは運だからね」
ヘラクレス症候群の俺は人より力が強く、力を込める事で頑丈さも格段に上がる。これは「力上昇」や「防御上昇」、「速さ上昇」を合わせた上位互換スキル「身体強化」を持つのと同じ効果だ。
つまり俺は既に戦闘系上位スキルを保持しているような物なので、ダンジョンで充分に戦える事が決定している。戦闘系スキルが無くともダンジョンに潜る人が多い現在、この恵まれた状況でダンジョンに行かないという選択肢は取れないのだ。
「舞ちゃんおはよう。お兄さんもおはようございます」
「おはよう。今日も舞をよろしくね」
舞のクラスメートが合流し、お喋りを始める。小学生といえども女性なのでその話に口を挟む事はせず二人のお喋りを聞きながら歩く。女性のお喋りを遮るとろくな目に合わないと前世で経験したからだ。
「舞、俺はこっちだから。気をつけてな」
お喋りに夢中な二人に別れを告げて中学校へと向う。返事が無かったが、楽しい会話を遮る必要もないだろう。
「見て見て、滝本さんよ。今日も可愛いわ」
「チッ、何であんな女男に女子が集るんだか」
「しょうがないだろ。成績は常に学年で三位以内、その上身体強化相当の異能持ちで勝ち組確定だからな」
女子の黄色い声と男子の怨嗟の声が聞こえるが無視する。一々相手にしていたらきりが無い。
「畜生、俺なんてスキルが『タンスの角に小指をぶつけたダメージ軽減』だぞ」
「言うな、俺だって『熊蜂の雄と雌を瞬時に見抜く』なんだ」
あれはスキルを得た先輩か3月までに産まれた早生まれの人だろう。この世界では新学期は前世と同じく4月にしているが入学の基準は1月を採用している。
2年生で得たスキルで進路を決めて3年生でそこに向かって努力する為、4月基準だと早生まれの人は進路を決める余裕が少なくなり不利なのだ。
その点、俺はどう転んでも探索者養成校に進学する事は既に決まっている。今の力に胡座をかかず筋トレも毎日行って備えは欠かしていない。
尚、来るべきダンジョンに備えての筋トレであって、線が細くて未だに女子と間違えられるから筋肉を付けようとした訳では無いと明記しておく。