第三百九十七話
「お前ら、ここからが本番だぞ。現実逃避してないで帰って来い」
「中佐、ここからが本番ってまだあるんですか・・・」
まだあると言うより、関中佐が言う通りここからが本題です。話を先に進めましょう。
「皇帝陛下と皇女殿下を広島から帝都にお連れした時の手段を明かそうと思うての。妾が使えるスキルは三つ、空歩と神炎と迷い家じゃ」
「優君は玉藻様になると別のスキルを使える、という事でしょうか?」
「その通りじゃ。空歩は空中を自在に歩ける、このようにな。神炎は望んだ物だけを燃やせる炎じゃ」
部員さんの質問に答え、空歩と神炎を実演する。と言っても神炎は何も燃やさずに消したのだけど。室内なので何かを燃やすのはまずい。前に緒方元少将の服を燃やしたというツッコミは受け付けません。あれは不幸な事故だったのだよ。
「そして最後の迷い家がこれじゃ。亜空間に作られた迷い家に入る事が出来るスキルじゃ。説明の続きは中で行う故、皆入るが良い」
俺はここに居る皆に迷い家へと入る許可を出して真っ先に光の扉を潜る。続いて部員さん達が入って来て最後に関中佐が来たので入り口を閉じた。
「外に出た?瞬間移動か?」
「亜空間ってどういう事なんだ?」
室内に居た筈が、光の扉を潜った瞬間畑や果樹園が広がる田舎の風景に変わる。そんな異常な現象に皆戸惑っている。前世ならば小説や漫画でこういう描写は沢山あるが、この世界ではそういった物が無いからなぁ。
「ここが迷い家じゃ。皆が居た世界とは別の世界じゃよ。入口を閉じれば外部から干渉する事は不可能じゃ」
「もしかして、皇帝陛下と皇女殿下はここに・・・」
「そうじゃよ。妾の許可無しにここに干渉するのは人の身には不可能じゃからな。神ですら声を届けるのがせいぜいじゃ」
お供えを送る事は出来るが、あれは俺の意思で贈りたいと願ってもいるので例外だろう。ここは世界で最も安全な避難場所だ。
「ここで取れた作物はすぐにまた実る。そして、ここで乾燥や熟成などの加工を行うと人が出て閉じた際に最良の状態で完成されるのじゃ」
「うわぁ、作物が無限に収穫出来るとか・・・」
「そうか、それで皇帝陛下の吊し柿を中佐が食べられたのか!」
説明しながら家屋に入る。部員さん達は細かく説明しなくても有用性とかに気付いてくれるから楽ができる。
「普通に暮らす為の設備は一通り揃っておる。ダンジョン内でも使用可能ゆえ、安全で快適な休息を取れるのじゃ」
「外に原チャリがありました。あれも出し入れ自由でダンジョンで使用出来るのですか?」
「そうじゃよ。迷い家ならばダンジョンに何かを持ち込む事もダンジョンから何かを持ち出す事も簡単じゃな」
要人保護だけでなくダンジョン攻略の大きな力となると知りざわめきが大きくなる。順序としては逆なのだけれどね。




