第三百九十一話
二日後の夕方、執事さんから来訪して良いかの確認連絡の後執事さんと伯爵様が我が家に来訪した。今回の話し合いには母さんと舞も同席する。
俺と父さんは前回と同じく二階に避難して貰おうと思っていたのだが、後で説明されるより同席して聞いていた方が手間が掛からないと押し切られた。
執事さんの態度から無体なことはしないだろうとの予測もあるし、相手がとんでもないスキルを保持していない限り俺が守れるという事で同席となった。
「前回に続きお時間を頂きありがとうございます。こちら、つまらない物ですが」
執事さんから手土産のお菓子を受け取った。前回は十萬石饅頭で今回は彩果の宝石だった。伯爵様、埼玉県民なのかな?
「滝本医師、手間をかけさせて済まなく思う。おかげで儂の面子もどうにか保たれる、礼を言わせてくれ」
冒頭から父さんに礼を言い頭を下げる伯爵様。かなり出来たお人のようで一安心だ。
「実は、滝本医師に専属の申し出をしたのは儂の本意ではない。滝本医師のような方が専属になってくれれば嬉しいと思うが、もっと上の人達が取り合うようなお方だ。儂には手に余る」
「過分な評価を頂き光栄に思います」
伯爵様の中では父さんの評価が滅茶苦茶高いようだ。実際に皇帝陛下や皇女殿下も診察した実績もあるから、俺は過大とは思わない。
「滝本医師に専属の申し込みをした理由なのだが・・・妻と娘なのだよ」
「「「「えっ?」」」」
誰かに命じられての申し込みとは想像出来ていたが、思いもよらない人物に俺達一家は驚きを隠せなかった。どういう事なのだろう。
「実は、娘が滝本医師のご子息の大ファンでな。テレビに映った姿を見て一目惚れしたようなのだ」
何と、理由がまさかの俺でした。しかも以前に出たTHKの番組が切っ掛けなんて、そんな事想像すら出来ないって。
「儂は反対なのだが、娘は嘆くし妻は娘の恋路を応援しないのかとなじる始末。伯爵家の婿に平民は相応しくないと突っぱねていたのだが、優君の功績を知ってなぁ・・・」
「父君の優秀さや皇帝陛下をお救いした実績があれば伯爵家を継ぐにも問題ないと反論されまして」
伯爵様の説明に執事さんが補足する。一年以上前に一目惚れして接触してきたのがこの時だったのはそれが理由だったのか。
「滝本医師を専属に出来れば子息である優君との接点も出来る。伯爵家としても益しかないのだから申し込めと押し切られて・・・」
「それで専属の申し込みをされたのですね」
力なく頷き父さんの質問に肯定する伯爵様と執事さん。日頃から伯爵様の奥さんとお嬢さんに振り回されているのだろうと容易に察しが付いてしまう。
「奥様は侯爵家から嫁いでいらして、家の権力はあちらが上なのです。なので伯爵様も奥様に強く出られず・・・」
「・・・ご苦労なさっておいでなのですね」
伯爵様、執事さん、強く生きて下さい。生きていればきっと良い事もありますよ。




