第三百九十話
執事さんに席を勧め、手土産の菓子折りを貰う。お茶とお茶請けの迷い家産の果実を使ったドライフルーツ盛り合わせを出して俺も席に着く。
「いきなりの訪問にも関わらずお時間を頂きありがとうございます。本日は滝本様にお願いがあり参上致しました」
「お願い、ですか。如何なる事ですかな?」
「我が主は先日滝本様に専属となっていだだく打診を医師会に致しました。その釈明をする機会を主に頂きたいのです」
執事さんのお願いに俺と父さんは揃って首を捻った。釈明とはどういう事なのだろうか。
「確かに私は専属の打診を医師会から受けました。しかし釈明とは・・・」
「それは私の口からは申せません。日時と場所は滝本様のご都合の良いようにご指定下さい。どうかお願い致します」
先日の医師会からの呼び出しで、父さんには多くの家から専属の打診があったと聞いた。その中に大木家もあったのだろう。
執事さんの言動からは大木伯爵が無理難題を言うような貴族とは思えない。俺は問題ないと思うのだが父さんはどう判断するだろうか。
「お会いするのは構いません。場所はここで大丈夫ですかね?時間は平日は診療時間後なら大丈夫ですよ」
「おおっ、ありがとうございます。主に報告して結果を御連絡したいのですが・・・」
父さんは執事さんと連絡先を交換して会う日時を伝えてもらう事となった。執事さんは何度も何度もお礼を言って帰って行った。
母さんと舞を呼んで手を付けられなかったドライフルーツを摘みながら話した内容を伝える。
「釈明とは変な言い方ね」
「何か訳ありみたいな感じなんだよなぁ」
母さんが漏らした感想に父さんが腕組みして考えながら応じる。舞は考える事を放棄して桃を食べている。
「釈明という言い方から察するに、専属医のお誘いは伯爵御本人の本意では無かったのかな?」
「とすると、誰かに命じられて行ったって事だよね。それが誰かが問題になるけど」
執事さんは良い人のようだったし、そんな人が仕えてる伯爵が悪い人とも思えない。だが、後ろに誰かが居るとなると厄介だ。
「それを命じた者に悪意があるかどうかが問題だな」
「単純に考えれば侯爵家や公爵家かな。自分が父さんを得られなくても伯爵が得られれば取り上げれば良いとか」
他人も巻き込んで申し込む事で当選の確率を上げる。前世でも良く見た手口だし、この世界でも行われているだろう。
「お兄ちゃんもお父さんも、考えたって確証は得られないのよ。なるようにしかならないわよ」
「そうだな、なるようにしかならないか」
いちじくを食べながら鋭い指摘をする舞に父さんも考える事を放棄した。実際、伯爵の思惑なんて調べようがないし動機を想像した所で裏付けなんて取れないのだ。
その後、執事さんから連絡が入り二日後の夕方に伯爵様と執事さんが訪れる事が決定した。




