第三十九話
襲い来るオークの間隔が短くなっていき、一頭を倒した後に休める時間が段々短くなっていく。早く倒して少しでも休憩時間をと焦り魔法の命中率は更に落ち、剣や槍の攻撃も粗くなって余計に時間がかかる。
「ねえ、さっきの獣人に救援要請しましょうよ」
「貴様、それでも栄えある帝国軍人か?民間人に助力を頼めと?」
槍を突く女性軍人に片手剣の軍人が言い返す。彼等は体力と魔力の消耗が激しく、このままでは全滅する事が目に見えている。
彼等がオークに敗れたとして、女性軍人だけは生き残るであろう。しかし、それはオークに持ち帰られるという事を意味しており、死んだ方がマシという状況に陥る事を示唆している。
「ならば、このまま全滅するの?それとも逃げて氾濫を引き起こす?」
女性軍人の返しに片手剣の軍人が押し黙る。モンスターは基本的に階層を越えないが、トレイン状態となるとその限りではない。
探索者を追い掛けるモンスターは、探索者が階層を越えても追い続ける。逃げた先で遭遇するモンスターもそれに加わり、探索者が階層を越える度にモンスターの量と種類は増えていく。
深く潜っていくのなら問題は無いのだが、もし地上に逃げた場合はモンスターの群れまで引き連れて地上に出てしまう事になるのだ。
そうなると通過した階層でのリポップが停止する代わりにその階層のモンスター全てが地上を目指し、地上にモンスターか溢れる氾濫が発生する。
モンスターを狩る量が少なくても氾濫が発生する事が確認されている為、ここのような不人気ダンジョンは陸軍部隊が間引きをして氾濫を防いでいる。
彼等は其の為にここに来ているのに、自分達が氾濫を引き起こしては来た意味がない。それは彼等も分かっているだろう。
「もう魔力が尽きそうだ。魔法はあと一発か二発しか撃てない!」
「馬鹿みたいに派手な魔法使うから消耗したんだろうが!おい、さっきの獣人、聞こえてたら助けてくれ!」
魔法スキル持ちが実質戦力外になるタイミングで片手剣持ちが白旗を上げてきた。流石にプライドと氾濫の被害を天秤に掛けたらプライドが負けたらしい。
「気は進まぬが、氾濫を起こす訳にはいかぬしのぅ。どれ、少々舞うとしよう」
接近してきたオークは女性の身体である俺を捕まえようと棍棒を放り投げ掴みかかってきた。それを半身ですり抜け鉄扇で腕を切る。
背後に回り両足の膝を切断し達磨状態にする。オークが次々来るので、止めを刺さずに次のオークと相対する。
手強いとみてか掴まえずに棍棒で殴りかかってくるオークを避けて腕を切る。一瞬痛みで止まったオークを蹴って吹き飛ばし、他のオークを巻き込む。
その反動を利用して別のオークに迫り、驚くオークの首を切りつつ飛び抜ける。
「何だ、あの戦い方は!」
「戦闘してると言うより、踊っているよう・・・綺麗!」
手の内を見せぬよう狐火と空歩を使わずに戦ったが、体術と鉄扇だけでも余裕でオークの群れを殲滅出来た。流石は女神様がダンジョン攻略用に用意してくれた身体と言うべきか。




