第三百八十七話
会議に出た翌日から新学期が始まった。ホームルームの後学園長のお話をモニターを通じて聞き始業式が終わる。
前世では体育館に集まって話を聞いて、順番に教室に戻ってとやっていたから変に思ってしまう。まあ、俺は普通の公立学校だったから前世でも高い身分の人達が通うような私立だったら同じようにしていたかもしれないが。
「しかし驚いたよなぁ」
「ああ、まさかロシア帝国の皇帝陛下が亡命して来るなんてな」
教室の話題はロシア皇帝陛下の亡命一色となっている。それだけのインパクトがある事件なので仕方ない。
「陸軍が保護したって聞いたけど、滝本君は陛下とお会いした?」
「いくら何でも軍属が皇帝陛下に謁見出来ないだろ」
陸軍の軍属だと知られている俺はクラスメートに囲まれて質問を浴びせられている。しかし無秩序に次々と言われるので対応出来ない。
「そう矢継ぎ早に言われても・・・あっ、来たな」
クラスメートを宥めようとした時、廊下から誰かが走ってくる音が響き入口の扉が乱暴に開かれた。
「ちょっと、滝本様が皇帝陛下をお救いしたって聞いたけど本当なの!」
姿を現すなり爆弾発言をぶっ込んだのは鈴木さんだ。来るだろうとは思ったが、やはり駆け込んできたな。
「ああ、母さんの実家に行った帰りに広島観光していて偶々ね」
俺の答えを聞いたクラスメート一同は時が止まったかのように動きを止めた。次の展開が読めた俺は両手で耳を塞いだ。
「うっそだろ!皇帝陛下と皇女殿下をお救いしたのかよ!」
「なあなあ、皇女殿下は可愛かった?写真とか動画は撮ってないの?」
「うわぁ、それって勲章ものだろ。その時の様子を聞かせてくれよ!」
教室に居た全員が叫び、口々に話しかけて来る。みんな、あの音量でよく平気な顔してられるな。
「写真や動画は無いよ。皇女殿下は凄く可愛かったと言っておく。勲章は・・・どうなんだろうね」
アーシャは掛け値無しで可愛かった。そんな彼女の姿を見せたりしたら騒動が大きくなるのは目に見えているので写真や動画は無いという事にしておく。
実際はニックやアーシャと一緒に動画を撮っているのだが、写っているのが玉藻なので見せるのは問題があるというのもある。
「謁見の口利きをしてもらうという訳には・・・」
「皇帝陛下の御身は陸軍から宮内省に移っているからね。今となっては難しいかな」
無理とは思いつつ期待もしていたのだろう。俺の言葉に鈴木さんは項垂れて教室から出て行ったのだった。
その後、クラスメートの質問に答え解放されるまで時間が掛かってしまった。一緒に帰る舞を待たせる事になるかと思いきや、舞もクラスメートに捕まっていたので待たせる事にはならなかった。




