第三百八十五話
来島の事を関中佐に伝えた俺だが、それで終わりとはいかない。すぐに情報部に出勤して関中佐と合流、会議に出て他部署の人達に説明する事となった。
情報部の部室では部員の人達があちこちに連絡を取ったり書類を捌いたりと日曜日の昼とは思えない有様になっていた。
「これは仕事を増やしてしまいましたか?」
「いや、逆に少しマシになってるよ」
関中佐によると、当てもなく委託先を探すというゴールが見えない作業から委託先を決定させる為の根回しというゴールが近い作業になったので助かったらしい。
会議に出る人達が集まったという知らせを受けて会議室に移動する。集められたのは大臣を補佐する政務官や政務次官といった人達だそうだ。海軍を除く全ての部署から出席しているらしい。
「海軍、徹底的に干されてますね」
「総理大臣以下、全大臣が早朝に叩き起こされたそうだからな。そして年末年始の休み返上で対処させられたんだ。恨まれて当然だな」
会議室に入ると座っていた人達が一斉に注目してきた。その視線に動じる事無く正面に立つ。
「お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。通達しました通り、ニコライ皇帝陛下の潜水艦を託せる候補が見つかりました」
「村上水軍の末裔だったか。本当に海軍の息は掛かっていないのか?」
「情報部所属の軍属、滝本准尉相当官です。先方は海軍を嫌っており、不穏な動きを見せる呉を警戒していました。なのでその心配はありません」
出席者達は俺の情報を知らされているようで、皇帝陛下を救った当人が来た事への驚きの声が上がっている。
「それは信じるとして、潜水艦を扱った事も無い者達に任せて大丈夫なのか?」
「現在の帝国に潜水艦を扱える者はおりません。海軍ですらホーランド級潜水艇が最後の潜水艦でしたから」
前世では日本海軍は日露戦争後に潜水艦を実戦配備し、太平洋戦争で使用する事となった。しかし、この世界では大氾濫が起きた為欧州から購入したホーランド級以外は購入も建造もされなかった。
「維持管理する施設は整備する必要があるのかね?あるなら予算を捻出する必要がでてくるが」
「それはどこに委託しても作る必要があるでしょう。現在の帝国に潜水艦のドックなど無いのですから」
予算の質問をしてきたのは財務省の事務官だろうか。中佐に即答されて納得した様子だ。ドックに関しては水上艦の物を改造したら安く上がるかもしれないが、話がややこしくなりそうなので黙っておこう。
その後幾つかの質問が出されたが特に問題となるような物はなく、来島に委託する事と各省庁は来島を支援する事が決定した。施設の建設などに関しては関中佐が四国に飛んで来島側と話し合う事になった。
今から目星を付ける事により来年度の予算編成に組み込めそうだと出席者一同が喜んでいた。因みに、その予算は海軍の物を削って捻出するらしい。
新造戦艦を建造したい海軍は泣くだろうけど、自業自得と諦めて貰うしかなさそうだ。
 




