第三百八十四話
吊し柿用の紐と情報部差し入れ用タッパーを買って帰ると、母さんに来島の伯母様に電話してほしいと言われた。待っているようなのですぐに電話する。
「すまぬな優。あの話じゃが、基本的には受けようと思うておる。じゃがな、儂らは潜水艦なんぞよう知らん。それでもええのか?」
「その点は心配要りません。今の日本で潜水艦に詳しい人は恐らく居ませんから」
潜水艦を建造する余力がある日本と英国では潜水艦の使い道が無い。だから今の日本でと言うより、世界で潜水艦に詳しい人なんて陛下の配下くらいだろう。
「それと、政府の支援を得られるというのは間違いないじゃろうな?」
「それはこれから話しますが、間違いなく支援してもらえるでしょう」
「なっ、まだ話を通しておらんのか!」
怒気を含んだ怒鳴り声で責められたが、それには理由があるのでそれを聞いて欲しい。
「双方同時に話す事は出来ないでしょう。片方が了承して片方が拒否するかもしれませんから。ならば断る可能性が低い方は後で了承を得るべきと考えました」
「ほう、政府は儂らに潜水艦を託す事を断らんと?」
「彼らはやらかした海軍を関わらせたくないようですからね。今から海の関係者で海軍嫌いを探すなんて手間暇をかける余裕もありませんし」
皇帝陛下配下の潜水艦をいつまでも所属不明のまま放置するのは皇帝陛下からの心象を悪くする。なので速やかに帰属先を決めたいと焦っているだろう。
だけど、小さい漁港まで海軍が巡視に来る現状、船を扱う人で海軍に敵対心を持っている人や組織は少ない筈。そして、それを公言する者は居ないだろう。なのでそんな人材を探すよりは推薦される来島を選ぶと俺は踏んでいる。
「・・・まあ、駄目でも今と変わらぬ生活をするだけじゃ。じゃが、この話を喜んでいる者もおる。糠喜びで終わらせんようにしておくれよ」
「出来るだけ早く朗報を届けられるようにしますよ」
政府筋も託す先を探していると思うけど、やっているのは陸軍情報部か内閣調査室辺りか。本当なら海軍の情報部が一番適任なのだろうけど、その海軍は蚊帳の外に締め出されているからね。
という訳で情報部の皆さんのお仕事を削るべく関中佐のスマホに電話をかける。
「お忙しい所をすいません、皇帝陛下の潜水艦ですが、管理運用を引き受けても良いという一族がありまして」
「なんだって!その一族、海軍の影響は無いのか?」
「ええ。村上水軍の末裔で、海軍嫌いな人達です」
背後に部員の人達の話し声や怒声が聞こえるので、周りに部員の人が居るのだろう。中佐の口調が軍属に対する物になっている。
「おぉい、優君が潜水艦の引受先を見つけてきてくれたぞ。村上水軍の末裔だそうだ」
「えっ、本当ですか!」
「やった、これで仕事が一つ減る!」
叫ぶ部員さん達の声が追い詰められた状態に聞こえるのだけど、情報部って俺の予想以上の修羅場になってないか?




