第三百八十二話
「・・・見事に全部ぶっちゃけたな」
「海軍を庇う気ゼロですね」
父さんと母さんが夕方の政府記者会見を見ながら言った感想がこれである。俺も同意見で、海軍を庇う理由が思い浮かばない。
「伯母様もこれを見ているだろうから多分・・・来たわね」
テーブルの上に置いてあった母さんのスマホが着信の音楽を鳴らす。相手は去年会った来島の伯母様だ。母さんはスピーカーモードで電話に出る。
「伯母様、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう、今年もよろしく・・・って、そんな事を言ってる場合じゃなかろう!」
いつもと変わらない母さんの挨拶に釣られて新年の挨拶を交わした伯母様だったが、すぐにツッコミを入れてきた。
「去年の呉の不審な動き、ロシア皇帝陛下が居たからじゃったのか!」
「ええ、そうですよ。伯母様には申し訳なかったですけど、機密に関わるので言えなかったのです」
あの記者会見を見れば呉の不可解な動きが皇帝陛下絡みだと思うのは当然だ。うちに確認するまでもなく分かっているだろうけど、やらずにはいられなかったのだろう。
「そうそう、伯母様には感謝してますよ。あの呼び出しが無ければ皇帝陛下を救えませんでしたから」
「え?な、なんじゃと?まさか、皇帝陛下を助けたという軍属は・・・」
「うちの優ちゃんよ。毒を受けた皇帝陛下を診察したのはお父さんね」
井戸端会議をしているかのようなマイペースな口調でネタばらしをする母さん。スマホの向こうで伯母様が絶句している様子が目に浮かぶようだ。俺達は次の展開が予測出来たので耳を塞ぐ。
「はあぁっ、儂が縁らを呼び出したのが皇帝陛下を救う切っ掛けになったと?!」
海軍の異常な動きの手がかりを掴めないかと藁にも縋る思いで姪の家族を呼び出したのが、まさかロシアの皇帝陛下を救う結果になるとは夢にも思わなかっただろうな。
「伯母様、ちょっといいですか?」
「優か。儂は今頭が痛おてすぐにでも休みたいのじゃが」
その気持ちは分かる。だけど、こっちも早めに目星を付けておきたい案件を抱えているのでここで聞いておきたい。
「実は皇帝陛下が祖国脱出に使った潜水艦の処遇に困ってまして。来島で管理出来ないか打診だけでもお願いします。引き受けていただけるなら政府の全面的なバックアップがあると思いますよ」
「またとんでもない案件を持ち込みよって・・・一族に提案はしておくで、返事は後日じゃな」
疲れ切った様子の伯母様は通話を切ってしまった。父さんと母さんは苦笑いして俺を見ている。
「優、そこで追い打ちをかけるか」
「関中佐や大臣の方々が困ってる案件だからね。皆今回の件で心労が溜まってるし、早めに解決したいから」
前向きな回答が来てくれれば良いのだが、こればかりは返事を待つしかやれる事がないのでこれ以上は何も出来ない。
ニックとアーシャの為にもっと何かをしたいけど、二人の件は政府レベルの案件だからなぁ。一介の軍属の俺が手や口を出せる事は無さそうだ。
 




