第三十八話
「バカじゃないの?あんな魔法使ったらこうなるなんて子供でもわかるでしょうに!」
「けっ、こんな間引き作業押し付けられてムシャクシャしてるんだ。派手に吹き飛ばしてストレス解消して何が悪い!」
音源に辿り着くと、揃いの迷彩服を着た四人パーティーが互いを罵り合いながらオークと交戦していた。どうやら三人の男の一人が魔法スキル持ちで、あの音の犯人らしい。
俺は交戦中のオークが倒れたタイミングで彼らの背後に降り立つ。正体バレを防ぐため、優とは違ったキャラクターを作り話しかけた。
「オークが集まりつつあるが、手助けは必要かのぅ?」
「誰だっ!・・・なっ、獣人だとっ!」
声に反応して振り返った四人は俺の姿を見て硬直した。ピンと立った狐耳にフサフサの尻尾。希少な獣人がいきなり現れればフリーズするのも無理はない。
「我は先程の爆発音を聞いた通りすがりの探索者じゃよ。付近のオークが集まっておる。そなた達だけで捌けるというのなら手出しはせんが、どうするかの?」
「我々は帝国陸軍ダンジョン管理部隊だ。部外者の助けなどいらん。余計なお世話だ!」
魔法スキル持ちが威勢よく啖呵を切る。しかし、先程の戦闘の様子を見るにこのパーティーが現状を打破出来るとは思えない。
「永井、我等帝国軍人は民の事も考えねばならぬ。我等が獲物を独占すれば探索者の稼ぎが無くなる。討伐を手伝わせて魔石を分け与えてやれば良い」
「な、成る程な。おい、我等帝国陸軍の補助をする栄誉を与えてやる。獣人ならばそれなりの働きをしてみせろ!」
永井と呼ばれた魔法スキル持ちは、リーダーらしき片手剣持ちに同意した。こいつらが逃げ出したら惨事を引き起こす事になりかねないので手を貸す事はほぼ決まっているのだが、こう上から目線で命令されると従いたくなくなるというものだ。
「いや、稼ぎには不自由しておらんでのぅ。不要と言うのなら余計な手出しはせぬよ。では健闘を祈るのじゃ」
「おい、待て!」
まさか立ち去ると思っていなかったのか、片手剣持ちが引き留めようとしてきた。しかしそれを無視して走り出す。四人は追いかけて来ようとしたが、オークの集団が遠目に見えると迎撃の体勢をとった。
四人が見えなくなった辺りで上空に上がり、彼らの真上まで移動する。よく見える特等席にて戦い方を観察する事にした。
彼等の戦闘は遠距離から魔法スキル持ちが体力を削る。接近されると盾持ちがオークの棍棒を防ぎ、片手剣持ちと槍持ちの攻撃でとどめを刺すというものだった。
しかし、余りにもお粗末な戦いだった。魔法は一撃必殺を狙ってか頭部を的にしていたようだが、命中率が悪く容易く接近されてしまう。
盾役は何とかオークを防げているが、片手剣と槍は早く倒そうと顔を狙っては外され腹を切るも分厚い脂肪に阻まれ中々致命傷を与えられない。
「片手剣が足を切って、立てなくなったら槍や剣で頭や首を突けば良いのに」
パーティー戦闘未経験の俺でもわかる戦術を、戦いのプロな筈の陸軍軍人が出来ていない。もしかして、この世界の軍人は弱いのだろうか?




