第三百七十九話
「ちょっと待て、滝本医師は旅行中偶々遭遇したと記憶しているが解毒剤を常備していたのか?」
「いや、間諜がそんなに簡単に解毒できる物を使う筈がない」
厚生労働大臣の問いに外務大臣が横槍を入れる。視線が父さんに集まったが、父さんは答えずに俺を見た。
「父さんのスキルでは診断は出来ても解毒は出来ません。別の方に助力を頼みました」
「そうか。しかし、何故医師ではなく君が答えたのだね?」
父さんへの問いに俺が答えた事に疑問を持つ厚生労働大臣。その疑問への答えは用意してあるのですぐに回答する。
「助力を願ったのが玉藻様だからです。軍機に触れる内容もある事から、軍属である私からお答えさせて頂きました」
「玉藻様・・・そうか、岡山での目撃情報はこれか!」
「はい。広島だと海軍に悟られる恐れがありましたので、少し離れた岡山から高速鉄道に乗車して頂きました」
広島で玉藻が目撃されれば海軍に関連を疑われ、窓口になっている陸軍情報部の関与を想起される恐れがある。となると陸軍が陛下を保護したのがバレて干渉してくる恐れがあった。
「成る程、考えたものよ。陛下を知られずに帝都にお連れしたのはどうやったのだ?」
総理大臣が質問を重ねてきたが、俺は答えずに関中佐を見る。移送方法は情報部が手配したという事になっているからだ。
「そこは機密事項に触れます故、平にご容赦を」
「ふむ、仕方ないな。どこぞから漏れて使えなくなっては困るからな」
有事の際に自身がその手段に頼る事になるかもしれないのだ。他の大臣達も追及せずに流すつもりのようだった。
「陛下、陛下がご使用になられた潜水艦は如何なさるおつもりですか?」
「我らは維持する能力を持たぬ。大日本帝國にて活用されるのが良いと考えておる」
皇帝陛下の答えに座がざわついた。潜水艦を譲られたとして管轄するのは海軍とするのが妥当だ。しかし、今回の騒ぎを起こした海軍に渡すのは釈然としないのだろう。
「下手を打った海軍に、と言うのも納得出来ませんな」
「そもそも、海軍は潜水艦を運用出来るのか?」
この世界の日本海軍は潜水艦を保有していなかった。理由は使い道が無いからだ。なので海軍に渡しても運用や保守のノウハウを持っていない。
「運用は現在の乗員に任せるか?」
「いや、それだと皇帝陛下の直臣を海軍の所属にする事となる」
「では、どこに所属させると言うのだ?」
皇帝陛下の直臣を海軍所属としたら、海軍は皇帝陛下への影響力を持ち続ける事となる。お歴々は皇帝陛下に干渉する権利を海軍から完全に奪いたいようだ。
「新たな部署を設立するか?」
「軍港は全て海軍の管轄だぞ。民間の港に停泊させる訳にもいくまい。大体、乗員以外の人材をどうするのだ?」
潜水艦を運用するなら海に詳しい人間が必要だ。しかし、海で船に関わる人間は多かれ少なかれ海軍の影響を受けている。小さな漁港にまで海軍の巡視が来る位だからなぁ。




