第三百七十六話
「海軍大臣、もうしらを切るのは止めたらどうかね。我々は全て知っていると言っただろう」
「知っているとは何を・・・おい、何者だ!」
総理への反論中に入室した関中佐を見て海軍大臣は鋭い口調で誰何し、興奮して立ち上がった。
「陸軍情報部部長の関と申します。海軍がお探しのお方を連れて参りました」
「何だと?・・・なっ、ま、まさか!」
関中佐に続いて入室した皇帝陛下と皇女殿下を見た海軍大臣は、発言しようと口を開閉させるが驚き過ぎて声を出せない。
「言っただろう、我々は全てを知っていると。ロシア帝国皇帝陛下と皇女殿下が亡命された事。海軍がお二人を呉に留め置いた事。お二人を奪還しようとした国外勢力が呉を襲った事も知っている」
「閣下、我ら陸軍はお二人を保護してすぐに各所に確認と報告をしています。海軍が全てを秘匿した事が事態をややこしくした事、皆様とっくにご承知です」
関中佐がトドメを刺すと、観念したのか力なく椅子に座り項垂れた。
「さて、海軍大臣。君達は何故皇帝陛下を保護した時に我らに報告しなかったのだ?」
「出来なかったのだ。我らは一枚岩という訳では無い。方針を揃えるべく協議を重ねていた最中に襲撃されたのだ」
海軍大臣の言い分を聞いた総理は虚偽を判別するスキル持ちを見る。二人とも何の反応も示さないので嘘ではないのだろう。
「方針とは何に対しての方針だ?具体的に言い給え」
「陛下が乗ってきた艦や乗組員の処遇や、どうやってロマノフの遺産を得るかだ」
身勝手な動機を聞いた出席者達の口から深い溜息が漏れた。そのせいで多忙な年末年始に仕事が増えたのだから気持ちはわかる。
「陛下の今後について海軍が関わることは一切無いだろう。君がやるべき仕事は陛下の乗艦を東京に回航させ、辞表を書く事だ。速やかにやり給え」
総理の指示を聞いた海軍大臣はノロノロと立ち上がり部屋から退出していった。その間に新たな椅子が用意され、陛下と殿下が着席した。
「さて、関中佐。彼らが君の報告にあった者達かね?」
「はっ。襲われていた陛下と殿下を発見し駆け付け、刺客を倒した軍属の滝本准尉相当官と毒で倒れた陛下を診断した滝本医師です」
中佐の紹介を受けて頭を下げる。全員の視線が俺と父さんに集中した。
「そうか。君の活躍が無かったら帝国は他国からの非難を浴びていただろう、よくやってくれた。幾つか聞きたい事があるのだが良いかな?」
「私に答えられる事ならば何なりと」
総理大臣閣下に礼を言われてしまった。質問しても良いかと聞かれたけど、この状況で駄目ですなんて言える筈がないよね。




