第三百七十話
「玉藻様、アナスタシアでは長いのでアーシャと呼んで下さい」
「では、私の事は玉藻と。この姿で無い時は優と呼んで下さい」
嬉しそうに愛称呼びを頼むアーシャに断れず、俺の事も名前呼びするように頼む。もうどうにでもなれと半ば投げやりになっていた。
「そう言えば、玉藻さんは普通の女性の姿にも男性の姿にもなれるのでしたね」
「元は男ですよ。女性になれるスキルを授かって、女性の時だけ妖狐になれるスキルを使えます。この迷い家は妖狐の時のスキルです」
皇帝陛下とアーシャを保護した後は万が一の事を考えて優に戻っていない。妖狐ではない姿を見せたのは広島城だけなので、アーシャは妖狐の姿の方を長く見ている。
「舞は優お兄ちゃんと優お姉ちゃん、玉藻お姉ちゃんって呼んでるよ」
「・・・」
俺をじっと無言で見つめるアーシャ。毒を食らわば皿までと言うし、期待に満ちた目で見られては断れないよな。
「構いませんよ。今日から妹が二人になったみたいですね」
歓声を上げ、手を取り合って喜ぶ舞とアーシャ。結構大きな声だったが、完全に酔いつぶれている皇帝陛下は起きなかった。
「あらあら、騒がしいわね。どうしたのかしら?」
「玉藻お姉ちゃんが、お姉ちゃんと呼んでも良いと言ってくれたんです!」
声を聞いて様子を見に来た母さんに嬉しそうに報告するアーシャ。余程嬉しかったみたいだ。
「話の続きはリビングでしましょう。陛下とお父さんが起きてしまうわ」
母さんに促されリビングに移動する。宇治茶を飲み大学芋を摘みながら話を続ける。
「妹が二人になったが、どっちがお姉ちゃんなんだ?」
「私は四月五日が誕生日で、次の誕生日にスキルを授かります」
「えっ、舞もだよ。同じ誕生日だったんだ!」
奇遇にもアーシャと舞は同じ日に生まれたようだ。何か作為的な物を感じてしまうが、神々は下界に干渉出来ないので純粋な偶然だろう。
一頻りはしゃいだ舞とアーシャ。それを見守っていると突然舞から質問が来た。
「そういえば玉藻お姉ちゃん、話し方を変えてなかったのは何でなの?」
「えっ、話し方?」
俺は家族以外の人が居る場合玉藻の時は話し方を変えていた。しかし皇帝陛下とアーシャの前では変えていなかった。なのでアーシャはその事自体を知らないので何の事だか分からないようだ。
「アーシャ、滝本優が玉藻だと知っているのは家族と陸軍の数人だけなんだ。だから玉藻の時は話し方を変えて玉藻が優だとバレないようにしているんだ」
「そうなのですね。なのにお父様を助けるために・・・」
アーシャに尊敬の眼差しで見つめられ、舞と母さんがそれを温かい目で見守っている。ちょっと、いや、凄く恥ずかしいのだが。
「玉藻の時の口調は古い話し方だから、日本語が堪能な陛下とアーシャでも理解しにくいと思ったんだ。だから普通の口調で通したんだよ」
理由を率直に話したら、アーシャが更に感極まった様子になってしまった。これ、どうしたら良いの?




