第三百六十七話
明けましておめでとうございます。旧年中はご愛読頂き誠にありがとうございます。今年もよろしくお願い致します。
関中佐が昼前に再びやって来た。とても疲れた顔をしている。まあ、こんな事件が起きているのだ。疲れていない訳が無い。
「玉藻様、中継器をお持ちしました。動作の確認をお願いします」
「こんなに早く都合を付けてくれるとは思うておらなんだ。忙しい中大変じゃったじゃろうに」
「いえ、既存の品を回しただけですので。幸い装備していながら稼働していない部署がありましたし」
こんな希少品を装備していながら稼働していない部署って、多分特別攻略部隊だろうな。こんなに早く用意出来たのも納得だ。
俺は中継器を受け取り迷い家に入る。入り口を閉じて機械を起動させ、中佐の携帯に電話をかけた。問題なく通話も出来たので機械は俺が使っている部屋の隅に設置して外に出る。
「それと報告なのですが、総理を含む内閣の閣僚や外務省、宮内省は今回の件を知らされていませんでした。完全に海軍内で秘匿されていたようです」
「となると、今後の対応と海軍への追及でてんやわんやじゃな」
「年末年始は行事が目白押しです。並行して進めても年内に解決は無理でしょう」
今年ももう今日と明日しかないのだ。今年中の解決なんて限りなく不可能に近い。
「となると陛下と殿下、妾達一家は迷い家で正月を迎える事になりそうじゃな」
「申し訳ありません・・・」
深々と頭を下げる関中佐。しかし中佐には何の責任もなく、完全に被害者だ。責められるべきは海軍のみである。
「中佐に責は無かろう。全ての元凶は海軍じゃ。そうそう、後程優の姿でお節料理等を買いに出たいが構わぬか?」
「勿論構いません。領収書を頂ければ経費で落とさせます。皇帝陛下と皇女殿下の饗応費になりますから、いくら高くても必ず出させます。出来るだけ良い物をお買い下さい」
中佐はそれを言うと仕事が残っているからと去って行った。お節料理の代金まで軍で持って貰おうとは思っていなかったのだが、皇帝父娘も食べる事を考えると質に拘らねばならない。甘えるとしよう。
一度迷い家に入り、通信が繋がる事とお節料理の調達に出る事を伝えた。舞も来たがったが、皇女殿下のお相手をしてもらう。
大晦日は特に動きは無かった。中佐から定期的に報告が入ったが、何かが決まったりという事は無かった。
「美味しい!縁殿の料理はどれも美味しいですな」
「あらあら、ありがとうございます」
深夜の十一時過ぎ、山盛りの天ぷらと一緒に年越し蕎麦を全員で食べた。皇帝陛下と皇女殿下は母さんの料理を気に入っているようで、毎食残す事無く完食しているらしい。
「襲撃され刺客に追い込まれた時にはどうなるかと思ったが、今では感謝したい位だな」
熱燗をチビチビと飲みながら上機嫌の皇帝陛下。皇女殿下は舞と一緒に可愛い動物の動画を見ている。そして日が変わり、新たな年を迎えた。
「「「「「「明けましておめでとうございます」」」」」」
去年は色々な事があった一年だったが、今年も激動の年になりそうだ。でも、俺には優しい家族や頼りになる上司もいる。何があっても乗り越えて行こう。




