第三百六十四話
話しながら食べていた朝食も食べ終わり、コーヒーを飲みながら話を続ける。
「それと、優君に捕らえていただいた襲撃者ですが、二人とも半島の出身者でロシアの工作員でした」
「皇帝陛下と皇女殿下を奪還しようとしたのじゃろうな。半島の者を使うのは、大陸の者ではすぐに外国人と分かるから動きにくいからじゃろう」
「ロシア人では髪の色や肌の色、顔立ちですぐに分かりますからね。外国人がすぐ分かるのは我らの強みですな」
多民族国家だと自国民なのか他国から来た者なのかを判別しにくい。その点日本はロシアや欧米からの人間はすぐに分かるから防諜という面ではやりやすい。
「アジアの民を使った間諜がかなりの数入り込んでいると思われます。玉藻様も用心されるようお願い致します」
「そうじゃな。常に気に留めておくとしようぞ」
玉藻が狙われる可能性は低いと思うが、滝本優の方は今回の件で狙われる可能性がある。それは両親や舞にも言える事なので、今回の件がある程度片付くまで迷い家に避難しておくのが無難かもしれない。
「それと、早急にダンジョン用の中継器を一台用意致します。あれを使えば迷い家内でも連絡がつきますし、ネットも利用出来るようになるでしょう」
「それは助かるが、この忙しい状況じゃ。後回しで良いのではないかのぅ」
あれば大いに助かるが、必須という物でもない。ただでさえ多忙な関中佐の時間と手間を掛けてまで入手するべき物ではないと思う。
「いえいえ、玉藻様との連絡をつけやすくするのは重要な事です。こちらから連絡するまで迷い家で防備を固めて頂く、なんて事も出来るようになりますので」
「中佐がそう言うなら甘えるとしようかのぅ」
関中佐がそこまで言うという事は、迷い家の内外で綿密な連絡を取りながら対処しなければならない事態を見越しているのだろう。
それが杞憂に終われば良いのだが、もしそうなった時に迷い家の中から外に連絡がつかない事で取り返しのつかない事態になったら後悔してもしきれない。
「それと、もし可能ならば皇帝陛下にお目通りをお願いしたいのですが」
「それは陛下に確認せねばな」
俺はすぐに迷い家に入りリビングに向かう。皆は朝食を終えてお茶を飲みながら寛いでいた。
「陛下、お寛ぎの所を申し訳ありません。帝国陸軍情報部の部長がお会いしたいと申し出ております。如何致しましょうか」
「玉藻殿、そなたが会って支障ないと思う人物ならば是非もない」
「畏まりました、すぐに案内して参ります」
皇帝陛下から過分な信用をされているような気がするが、陛下からすれば頼れるのは俺達だけだから選択肢がないのだろうな。後に皇帝陛下に信用して良かったと思って貰えるようしっかりとお守りしないと。




