第三百六十二話 とある地方の役所にて
情報部が多忙だったもう一つの理由がこれ。
時は少し遡り、滝本一家が呉で海軍兵士に追い返された頃。とある地方にある小さな役場に黒塗りの高級車が停車した。
「邪魔するぞ」
「どちら様で・・・って、ええっ!少将閣下!」
役場に入って来た男は態度も横幅も大きかったが、男の軍服に付けられた階級章はその態度を容認させる物だった。
「閣下のようなお方がこんな辺鄙な場所にどのようなご用件で?」
「なに、我が特別攻略部隊に勧誘すべき人材を探しにな」
この態度も横幅も大きい男は玉藻ちゃんに無礼を働きお尋ね者となっている緒方元少将だった。彼は大胆にも堂々と公的機関に姿を現した。
「このような場所にご足労頂かずとも、データベースをご覧になられれば・・・」
「それでは帝都に籠もる事になってしまう。地方に足を運び現場を直接見て書面では感じられぬ空気を感じる事も肝要なのだよ」
対応した役場の職員は、地方を軽視しない少将の発言に感動した。
「・・・と言うのは建前で、物見遊山をするのが目的だがな」
「ぷっ、物見遊山で御座いますか。閣下、データの閲覧はこちらの端末をお使い下さい。ただいまお茶をお淹れします」
尊敬の眼差しを受けた元少将は照れを隠すように遊びが目的だと誤魔化す。それを聞き思わず吹き出した職員は、ますますこの少将に好感を抱いた。
緒方元少将は職員が離れたのを確認し、懐からモバイルメモリーを取り出し接続した。開いたウィンドウを操作し中のデータを端末に落としていく。
一方、お茶を淹れる為に給湯室に入った職員はお湯を沸かし殆ど使われる事のない高級茶葉を急須に入れる。
「おっ、それを使うとは珍しいな。誰かお偉いさんでも来たのか?」
「ああ、帝都から少将閣下がな。特別攻略部隊にスカウトする人材探しだそうだ」
たまたま湯飲みを持って入って来た別の職員に来客を告げる職員。彼は少し考えこみ大声で叫んだ。
「おい、特別攻略部隊の少将だと?そいつは軍部から犯罪者として手配がかかってた奴じゃないか!」
「えっ・・・は、犯罪者?」
この役場にも他言無用との注釈付きで緒方元少将の手配書は回っていた。しかし日々送られる通達を全て覚えている職員などおらず、まず関わる事など無いだろう手配書など読んでも記憶の片隅で埃を被り忘れられている。
「そいつは何処にいる!」
「えっ、受付裏の端末に・・・」
職員が受付に血相を変えて走り込んで来た時、緒方元少将はプログラムのダウンロードを終えてモバイルメモリーをしまっていた。
「本当に元少将だ。よくもぬけぬけと!」
「ちっ、バレては仕方ない。儂はまだ捕まる訳にはいかんのだ!」
緒方元少将はカウンターを飛び越えると華麗に出口を抜けて逃走・・・とはいかず、着地に失敗して転がりながら役場から脱出。待機していた車に乗り込み逃走した。
「ちっ、逃がしたか。すぐに報告しなくては!」
謎の組織に参加した緒方元少将。彼の暗躍は続く・・・




