第三百五十八話
高速鉄道の線路上を高度を保って空歩で走る。時々トンネルで線路を見失いつつも何とか岡山に到着した。
玉藻になると夜目が利くので助かった。そうでなかったら線路を見つけられず迷走していた可能性が高い。
「おい、あれ!」
「えっ、狐巫女さん?」
夜陰に紛れて地上に降り立ち岡山駅に入るとたちまち注目されてスマホを向けられた。じきにSNSに上がるだろう。
「東京駅まで一番早く到着する列車に乗りたいのじゃが」
「は、はいっ!グリーン席でお取りしますか?」
「そうじゃな、それで頼む」
本心では指定席で良いと思うのだが、一応皇族と同等の存在と公認された身だ。流石に自由席や指定席というのはマズイだろう。
以前高崎から大宮まで乗った時は座りすらしなかったが、あの時は時間が三十分足らずと短い時間だったからだ。
スマホで決済して切符を受け取る。対応してくれた駅員さんの声と手が微かに震えていたので緊張していたのだろう。
自動改札機を抜けてホームに上がる。途中遭遇した人達の注目を浴びるが害はないので無視して進んだ。ホームに出て列車を待っていると関中佐から着信が入る。
「玉藻様、軍の会議ですが地方に出ている者の到着が夜半になる為明朝連絡致します。今夜はゆっくりとお休み下さい。尚、ホテルは手配しておりますのでお手数ですが情報部にお寄り下さい」
「多忙な中での気遣い感謝するぞえ。中佐も無理をせぬようにな」
かなりの忙しさだろうに俺が泊まるホテルにまで気を回すとか関中佐、仕事出来過ぎでしょう。過労で倒れなければ良いけど。
それを仕事を作った俺が言うなとツッコミが入りそうだが、それはそれこれはこれと言う奴だ。
構内アナウンスが流れ高速鉄道が入線する。乗車位置にずれずに扉が来るよう停車する高度な運転技術は今世も前世と変わらない。
上りは帰省ラッシュの下りと違い席は空いていた。しかし無人という訳ではなく車内に居た何人かは俺の姿を見て驚きの表情を浮かべていた。
列車で有名人を見ても突撃して来ないのが日本人の良い所。注目はされても突撃してくる人は居なかった。
「ふむ、やはり話題になっておるのぅ」
SNSをチェックすると岡山駅での姿が撮影されてアップされていた。初めて関西で目撃されたとあってお祭り状態になっている。
岡山に出没した事にあれこれと憶測されているが、当然ながら正解を言い当てている者は居ない。
列車は定刻通りに東京駅に到着した。注目を浴びながらも駅を出て空歩を使い市ヶ谷を目指す。情報部に顔を出すと部員の皆さんが慌ただしく動いていた。
忙しい年末に特大に厄介な仕事を増やして申し訳ないけど、恨むならロシア皇帝一家の亡命なんて情報を隠していた海軍を恨んで下さい。




