第三百五十七話
続いて皇帝陛下から聞き取った内容を報告する。中佐はさぞかし頭を痛めている事だろう。確認するべき事も根回しをせねばならない事も多すぎる。
「問題はこれをうちの上層部や政府、宮中が知っているかどうかだな」
「もしも海軍が何処にも知らせていなかった場合、かなり面倒な事になりそうじゃのぅ」
今でも超特大の面倒事なのだが、天皇家や政府も知らされていないとなるとその後の処理がとんでもなく厄介な事となる。
「うちの上は第一報を頂いた後に召集をかけました。年末のこの時間に呼び出すのでお歴々の機嫌は最悪でしょうけど、素早く動く必要がありますから・・・」
不機嫌なお偉いさん達の相手をする羽目になる関中佐には同情するが、呼び出した理由を告げれば納得してくれるでしょう。
「玉藻様には申し訳ありませんが、出来るだけ早く帝都にお戻り下さい。上への説明を行った後方針をお伝えします」
「了解じゃ。中佐にも苦労をかけるがよろしく頼むぞえ」
俺は通話を切ると迷い家に入る。少々長話になってしまったようで夕食の支度は終わり、うちの家族と皇帝陛下父娘は食卓についていた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「謝罪には及ばぬ。我らの為に動いているのだ。感謝はすれど責める謂れはない」
これ以上待たせるのも失礼なので席につき食事を始める。今日のメニューはオークの生姜焼きにサラダ、ふかしたじゃが芋だった。
「む、これは美味しい。この味付けは日本の郷土料理なのかね?」
「郷土料理と言えるかは微妙ですが、日本では好まれる味付けですわ」
皇帝陛下の問に母さんが答えた。生姜焼きは日本独特の料理だと思うけど、どこかの郷土料理ではないと思う。何にせよ皇帝陛下は気に入ってくれたようだ。
「お父様、このサラダも絶品ですわ」
「おおっ、ドレッシングを付けなくても野菜自体が美味しい!」
「野菜はこの迷い家で収穫した物を使っております。ここの産物は質が良いようです」
二人は生姜焼きに続いてサラダも気に入ってくれたようだ。流石は神様謹製の迷い家、その産物は皇帝陛下と皇女殿下も魅了したか。
二人とも料理を綺麗に完食してくれた。俺は迷い家から出て移動しなければならないので皇帝陛下に説明をしておこう。
「陛下、ここは私のスキルで作られた異空間です。私の許可がなき者は絶対に入り込めないのでご安心を。そして、出入り口は私が移動すれば共に移動します。なので私はこれから帝都に戻ります」
「では、そなたが帝都で出口を開いたら我らは帝都に出られると言うのか!何とも凄まじいスキルよな」
「その通りに御座います。今宵はここでお休み頂き、明朝には帝都に到着しますのでごゆるりとお休み下さい」
俺は両親と舞に設備の使い方の説明と浴衣の着方の説明等を頼んで迷い家から出た。
「さて、このまま広島駅から高速鉄道に乗っては疑われるのぅ」
海軍の施設から脱出した皇帝陛下一家を陸軍が保護し、その日関東でしか目撃されていない玉藻が広島から高速鉄道に乗った。そんな話が海軍に伝わったら、玉藻が攫ったなんて話になりかねない。




