第三百五十一話
殺意を乗せて放たれた弾丸は、モンスターの甲羅で作られた大盾により全てが弾かれてしまった。
「なっ、なっ、何だそりゃあ!」
「ああ、やはり落とし亀の大盾はマイナーか。使う人殆ど居ないからなぁ」
良い性能を誇る大盾なのだけど、素材を持ち帰るのが大変なので使っている人は少ない。そもそも、大盾使いが少ないからなぁ。
「そこじゃない!」
「あっ、やっぱり?」
そりゃ、自称陸軍情報部員さんにしてみればツッコミ入れたくもなるでしょうよ。何処から大盾取り出したとか、男だったのに女になってるとか。
「その気持ちは分かるけど、突っ込んでる暇があったら逃げるべきだったね。逃がしはしないけど」
斧槍を伸ばし柄の部分で男を強打する。訳がわからずパニック状態になっていた男は無防備に腹を打たれ意識を刈り取られた。
「あ、貴方は一体・・・」
「これはスキルの効果だから気にしないで」
と言っても無理だろう。いきなり妙な武器を持ったかと思えば大盾になっている上に少年だったのが少女になっている。
それが長柄の武器になると同時にドレスアーマーを身に纏っているのだから聞きたいことは幾らでもあるだろう。
「今はそれどころじゃない、銃声で人が来る。早くここを離れないといけないから付いてきて」
男に戻り倒れている男性を背負う。倒した男もそのままではマズイので、ナイフと銃も回収し左右の手で一人づつ足を掴んで引き摺って行く。
「優、さっきの音は何なんだ?それにその人達は?」
「話は後で。早くここから離れよう」
堀を渡れる場所は限られる。お掘りに沿って歩き木々が密集している所を見つけて落ち着くことにした。
「この男達が銀髪の二人を襲っていたんだ。陸軍軍人を名乗ったけど偽物だったから倒した。あの音は銃という鉛の弾丸を撃ち出す武器の音だよ」
「そうか。察するにその二人が軍人が探していた密入国者か」
まあ、そう考えるのが妥当だよね。身元を聞かなくてはならないが、その前に意識を失っている男性の具合いが気になるな。
「父さん、男性を診てくれるかな」
「分かった・・・まずいな、毒に侵されている。この傷が原因だな。猶予は三日という所だ」
父さんが示した傷口は小さな穴が空いていて周囲が赤く腫れている。毒を塗った針で刺したのだろう。
「遅効性の毒で人質にするか。効率的だけど気に入らないやり方だな」
「酷い!お父さん、何とかならないの?」
「独特な毒で、専用の解毒剤が必要みたいだ」
俺の呟きを聞いた舞が憤慨する。毒で脅す場合は解毒剤もセットにした方が効果が高い。襲撃者の持ち物を洗ってみよう。
「ダメだ、それらしき物が見当たらない」
「となると、どこの手の者か聞き出して解毒剤を入手しないとな」
気絶している二人の持ち物を全て見たがアンプルや薬剤は所持していなかった。残された手段は父さんの言うようにこいつらの所属を聞き出してそこから解毒剤を入手するしかない。
だけど、残された日数でそれが可能だろうか。今度のお正月は前回よりもハードなお正月になりそうだ。




