第三百四十八話
「話が逸れてしもうたな。海軍は今、新たな戦艦を建造しようと画策しちょる。旗艦を務める紀伊級は世界最大の戦艦じゃが昭和中期に建造された老朽艦じゃ」
「近代化改装をしているとはいえ、限度という物がありますからね」
新たな技術や戦略を活かそうとするなら、既存艦を改装するよりそれに合った新型艦を建造した方が効果は高い。しかし、効果は高くなるがそれに必要な予算も高くなる。
「しかし戦艦を必要とする事はほぼ無く、その為の予算が通らないので海軍が何かを画策しているとお思いなのですね」
「そうじゃ。現在の世界に戦艦を必要とする相手はおらぬ故、強硬手段を取る可能性もあると思うておる」
元々戦艦を保有していた国は少ない。その中でロシアは国の体を保てず、欧州各国は連合を組んで英国の援助を貰い何とかという状態で戦艦の保有など夢のまた夢。
アメリカは国内の魔物の対処が終わったばかりで海に目を向ける余力はなく、しかもいくつかの州が独立するという状態で海どころではない。
唯一帝国に対抗出来る海軍戦力を保有する英国は帝国の同盟国で、各技術でこちらが上なので戦争を吹っかけてくる可能性はゼロに限りなく近い。
そして海軍の活躍の場はアジア各国のシーレーン防衛で相手は海賊だ。戦艦なんてオーバーキル過ぎて、主力は巡洋艦を旗艦とした駆逐艦隊だ。
「実動しとるのは駆逐艦隊じゃ。それを補強するのが最も効率がええ。退役後も売れるしのぅ」
「アジアの国々では元帝国製の駆逐艦は人気ですからね。戦艦なんぞ買う国はありませんから潰しも利きません」
旧型となりお役御免となった駆逐艦や軽巡洋艦は、希望する国に売却され第二の艦生が始まる。しかし戦艦は維持に高い費用が必要ながら出番はないので費用対効果が悪すぎ買い手はいない。
「そして最近呉の様子が変なのじゃ。警備が厳重になり、通信量が増えておる」
「えっ、じゃあお船見に行けないの?」
呉で戦艦を見るのを楽しみにしていた舞が落胆する。俺は舞の頭を撫でて慰めた。
「軍港に入る訳じゃなし、少し遠くから艦影を見るだけなら大丈夫じゃないかな。その辺はどうなんですか?」
「基地外にも軍人の姿が多数見られるようじゃが、一般人の接近禁止などはされておらんようじゃ」
艦を見る事は出来そうだと知って舞の表情が明るくなった。撫でている手を引っ込めようとしたら舞があからさまに残念そうになるので撫でるのは継続する。
「舞よ、良いお兄ちゃんじゃな」
「うん、最高のお兄ちゃん!」
大人三人が俺達を見る目が生暖かい。俺がその立場でも同じような反応をするだろうから分かるのだが、見られている方としては照れる。
「その話は上司にしても構いませんか?勿論出処はぼかします」
「そうじゃな。陸軍さんが知っているかどうかは知らんが、耳に入れて損はないじゃろう」
話が終わった叔母様は帰っていった。四国の家に帰るのではなく高梨の家に行くと思うのだけど、うちを呼んだ理由をどう誤魔化すのだろう。
 




