第三百四十五話
岡山駅に到着し、在来線に乗り換える。ちなみに、東京駅で買っていた駅弁は車内で美味しくいただきました。
「瀬戸大橋のお陰で楽ね。母さんが関東に行った時は電車が通っていなかったから岡山駅まで車で送ってもらったのよ」
昔はバスで山を越えればローカル線が走っていたそうだが、赤字で廃線になったそうだ。
「その廃止になった電車も三両編成だったから、東京に来て十五両編成の電車を見てビックリしたわよ。しかも、その長い電車が満員になるんだもの」
母さんの思い出話を聞いていると目的の駅に到着した。大きな建物もある普通の町という印象で、母さんの話と少々食い違いがある。
「ここで間違ってないわよね」
「何で母さんが疑問を持つの?」
ここで生まれ育った筈の母さんが、ここが地元かどうか疑っているという謎現象。それを俺達に聞かれても答えようがない。
「縁が旅立った時とは違う町になってるからじゃ」
「あっ、姉さん?」
突然声を掛けてきた女性に母さんは戸惑いつつ聞く。実の姉妹か自信がないという状態みたいだけど、二十年以上会っていなければ仕方ない。
「よう戻ったな。家の位置も分からんじゃろと思うて迎えに来たわ」
「ありがとう。私だけじゃ絶対に帰れないわ」
母さんのお姉さんに先導されて歩く。十分程歩いて着いたのは、三階建ての建物で一階が美容院になっていた。
「縁が出てから建て直したけぇ案内されんと辿り着かんわ」
「風景も変わってるから絶対に無理ね」
伯母さんは店舗の入り口ではなく脇にある住居用らしい玄関に入る。俺達一家も母さんを先頭にそれに続いた。
「縁を連れて来たで」
「た、だだいま帰りました」
案内された居間には十人程の人が集まっていた。母さんは戸惑いながら挨拶する。
「縁、よう戻ったの。元気そうで何よりじゃ」
「お母さんもお元気そうで」
奥に座っていたご婦人が立ち上がり、母さんと抱擁を交わす。あの人が俺の祖母だろう。他の人達は母さんと同年代に見えるから兄弟姉妹とその伴侶かな。
「来島の叔母様、お久しぶりです」
「久しいのぅ、縁。旦那を紹介してくれんかの」
祖母の隣に座っている御婦人は祖母の姉妹のようだ。母さんは父さんと俺、舞を紹介した。その後母さんの親族が自己紹介をした所で落ち着く事に。俺達も席につき出されたお茶を茶菓子を頂く。母さんは関東に出てからの事を掻い摘んで話していた。
「でも、町がすっかり変わってるから驚いたわ。駅が出来るだけでここまで変わるのね」
「縁がおった頃は河口に漁船が並んどったからの。もうあの頃の面影はのうなってしまったわ」
この町の昔を知らない俺や父さん、舞はただ話を聞いている。しかし、あんな手段で呼ばれた以上昔話だけで終わるなんて事はない。
「縁、こっちで暮らしたらどうじゃ。旦那さんは医師と聞いた、この町で開業したらええ」
母さんに来島の叔母様と呼ばれていた人から本題と思われる発言が飛び出した。岡山に引っ越して来いと言われるとは予想外だったなぁ。
今回は方言が入っている為、誤字と思われてしまうような言葉が散在しています。
 




