第三百四十四話
向こうの思惑は行ってみなければ分からない。情報の足りない事をあれこれ予測しても仕方ないので俺は話を変える事にした。
「舞、岡山で見たい物はあるか?」
岡山は岡山城や後楽園、倉敷や刀剣博物館など観光名所も沢山ある。折角行くのだから観光くらいしても良いだろう。
「見たい物?えっと、大きな船。新潟で見た船が格好良かった!」
「新潟って、軍艦かな?」
新潟旅行に行った時、連絡船から駆逐艦隊が見えた。海無し県の県民である俺達は大きな船を見る機会など無いから印象に残っていたのだろう。
「母さんの故郷だと、ちょっと難しいわね」
母さんの故郷は昔は北前船の寄港や金毘羅さんへの詣で客の渡航地として栄えたそうだ。しかし船が進化し大型化して航続距離が伸びると段々廃れていった。
大きくなった船は狭い港に入港出来ず、航続距離が増したので寄港する必要も無くなった。港を広げようにも山に囲まれた地で大規模な工事は難しいという事もあり出来なかったそうだ。
「母さんが出てきた頃は小さな港に漁船が居たけど、舞ちゃんが見たがる大きな船は居ないわね」
「えっ、そんな所に海軍が巡視に来るの?」
こう言っては失礼だが、漁船が居るだけの小さな港に態々と海軍士官が巡視に来る意味があるのだろうか。
「密入国を取り締まるのは海軍の管轄だから監視しているらしいわ。常に全ての港を、とはいかないから不定期に巡視しているそうよ」
「海軍さん、ちゃんと仕事してるのね」
「いや、巡視に来て母さんにアタックしたのだからダメだろ」
感心する舞にツッコミを入れておく。仕事で来たのなら女の子に秋波寄せてたらダメでしょうに。
「それじゃあ車を借りて呉まで足を伸ばすか。あそこなら多分大きい船がいるぞ」
「やった、お父さん大好き!」
自分の望みを叶えようとする父さんに抱きつく舞。確かに呉ならば大きい船も居るだろう。
ダンジョン管理でポイントを稼ぐ陸軍に対し、海軍は看板となる巨大戦艦を喧伝している。五十一センチの主砲を持つ世界最大の戦艦、紀伊と尾張だ。その威容を見せて帝国の海の守りは万全と盛んに宣伝を行っている。
「優ちゃんは行きたい所はあるのかしら?」
「どれだけ時間が取れるか分からないからね。取り敢えず舞の希望を叶えて、時間が余ったら考えるよ」
俺には広島の観光地と言ったら宮島と原爆ドームくらいしか思いつかない。そして第二次世界大戦を行わなかったこの世界では原爆ドームは存在していない。
原爆ドームは1915年にチェコの建築家の設計で完成した広島県物産陳列館という建物だった。しかしこの世界ではその前に歴史が変わったので建物自体が存在しない。
「まあ、母さんの実家での話し合い次第になるな」
結局そこに行き着いてしまう。面倒な話しは手早く終わらせて、家族水入らずで観光と洒落込みたいな。




