第三百四十一話
「受付嬢さん、もう帰って良いですかね。魔石は全部引き上げます。こんな状態では売れませんから」
「良い訳が無いだろう、魔石を持ち帰ろうとするなんて、証拠を隠蔽するつもりか!」
この主任の中ではこの魔石は盗んだ物で確定してるのかね。俺は早く帰りたいのだが。
「そちらがそう出るなら、こちらも不本意ながら然るべき手段を取らせてもらいますよ」
俺はスマホを取り出し電話をかける。それを見た主任は鼻で笑うとさらなる暴言を吐いた。
「親にでも泣きつくつもりか?ギルドに楯突くという事は軍に、ひいては国に楯突く事になるのだぞ。保護者が出てきた所でどうにもなりはしない」
言いたい事を言って満足げな主任を無視して通話相手に現状を伝えた。声は冷静だったが怒りの感情は隠せていなかったので効果はすぐに表れるだろう。
「俺のモットーは義には義を、恩には恩を、非礼には非礼をなんです」
「はぁ?何を訳の分からない事を」
主任が言葉を続けようとした時、派手に扉を開く音が聞こえてきた。何事かと音がした方に視線を向ける俺と主任と受付嬢さん。
「お前は何をやってるんだ!」
「へっ、ギルド長?ふべらっ!」
鬼のような形相で走ってきた中年男性は跳躍すると空中で一回転し、両足を揃えた見事なキックを主任の背中に命中させた。
「お前、何をやらかしたのか分かっているのか?陸軍情報部の部長から直々に連絡が来たんだぞ?このギルドは軍の威光を笠に着て探索者の個人情報を抜き取るのかとな!」
「えっ、いや、これは公益の為・・・」
「お前は降格されて左遷されてもまだ懲りないのか!」
どうやらこの主任、前の赴任地では副ギルド長をやっていたらしい。目をつけた女の子パーティーに優遇するからと如何わしい行為を強要した為、この秋にこの不遇ダンジョンに左遷されて来たそうだ。
「な、何で軍からそんな連絡が来るんですか・・・」
「先程電話したでしょう。俺は陸軍情報部所属の軍属ですからね。何かあったら上司に報告するのは社会人の基本ですよね」
報告・連絡・相談は大事です。日頃からそれを怠らないように注意しましょう。
「なっ、何でこんな若造が情報部に・・・」
「ソロで二十七階層に到達出来る探索者。軍が確保しようと動くには十分な理由だと思いませんか?」
笑顔で理由を教えてやったら主任はがっくりと項垂れて何も言わなくなってしまった。
「申し訳ありません。こいつは然るべき処置を行いますので中佐殿には良しなに・・・」
「ええ、悪いのは全てその主任であって、受付嬢さんやギルド長さんは被害者ですね」
受付嬢さんは完全に巻き込まれだし、ギルド長さんもこんな人材を押し付けられた被害者と言える。部下の教育がなっていないという見方もあるかもしれないが、三カ月程度で性根を叩き直すのは難しいだろう。
ギルド長さんに魔石の売却も行ってもらい、代金は口座に入れて貰った。気分直しにと途中寄ったコンビニでスイーツを買い数日振りの我が家に帰り着いたのだった。




