第三十四話
「優、学校から連絡があって出来るだけ早く話がしたいと言われたがどうする?」
「話が?処遇が決まったのかな?」
翌朝、食事の席でお父さんから学校から連絡があった事を伝えられた。決定を伝えるのではなく話したいというのが引っ掛かる。
「何だか切羽詰まっていて縋るような印象を受けた。行かない訳にはいかないが、いつ行くかは優の判断に任せる」
「内容が気になるし、この後行ってみるよ。早くけりを付けたいしね」
どうせ中学卒業後は探索者養成校に行くのだから、学校は無視してダンジョンに通うという選択肢もある。前世と違う歴史と地理さえ自分で学べば学力も大丈夫だろう。
しかし、義務教育を一年半無視しておいて探索者養成校に入れるかという懸念もある。潰せる不安要素は潰しておくというのが俺の性分だ。
着せ替え人形で制服に着替え、ポケットにICレコーダーを入れて準備完了。交渉は録音して記録を残さないと、言った言わないの水掛け論になってしまう。
学校に行くと授業が始まっていて廊下は無人だった。人気の無い廊下を進み校長室の前に立つ。レコーダーをオンにして、スマホでも録音をしてノックし中に入る。
「ああ、呼び出してしまって済まないね。こちらに座りたまえ」
入室するとやけに腰の低い態度を取る校長先生に応接セットのソファーに座るよう促された。手際よく緑茶を入れ、茶菓子の入った籠まで置かれて歓待された。
「こんな事を君に言うのは筋違いだと重々承知しているしかし言わせて欲しい。頼む、助けてくれ!」
どんな話を切り出してくるかと内心身構えていた俺に投げかけられた言葉は、想像の斜め上を行く言葉だった。テーブルに頭をぶつける勢いで下げてそのままなのだからかなり追い詰められているのだろう。
あまりに予想外な出だしに対応出来ず、密度の薄くなっている頭頂部を見続ける事になってしまった。何の密度が薄いかは、校長先生の名誉の為に言及を避けさせていだきます。
「校長先生、取り敢えず頭を上げて下さい。説明してもらわないと何が何だかわかりません!」
「ああ、すまない。実は・・・」
学校側は当初、俺を支援級に入れるという対応で済ませるつもりだったらしい。しかし、そこにPTAからの猛抗議が入ってしまった。
俺の支援級入りを反対したPTAの殆どが女子生徒の保護者であったらしく、普通に考えればそれを歓迎する筈なのに何故反対するのか分からないそうだ。
女子になれる男子をそのままにして良いのか?という至極真っ当な質問にも、そんな起きるかどうか分からない懸念で差別するのはおかしいの一点張り。
そのままでは文句を言うだろうと予想した立場の保護者達からそのままにしろと言われた以上、俺を支援学級に入れる意味は学校側には無い。しかし、あれだけ懸念を表明し出席停止にした以上何もせずという訳にはいかない。
教師たちが頭を突き合わせて解決策を模索するも名案は浮かばず、ついに恥を忍んで俺に解決策を考えさせようと呼んだらしい。
・・・俺、帰っても良いかな?良いよね。




