第三百三十八話
二十六階層へ入り優のステータスに記録を付ける為に一瞬優になり玉藻に戻る。電鹿の射程は結構長いから高度を高く取って行く。
なだらかな丘陵が続き、時折ポツンと電鹿が佇んでいる。見るだけなら立派な角を持つ姿は格好良いのだが、戦うとなると厄介極まりない。
空からの探索は効率が良く、二時間かからずに二十七階層に抜ける渦を発見した。予想より早く発見出来たので、リザードマンとの対戦経験を積んでおこうか。
玉藻のまま渦に入る。自然物ではない壁が迷宮ステージである事を示唆していた。二十七階層と逆ならばここも狩り場になっていたのだろうが、ままならない物である。
警戒しながら歩き、T字路を左に進んだ。左を選んだ事に意味は無い。すぐ戻れるよう戻る渦から離れないようにするつもりだし、単なる気分だ。
通路はすぐに左に曲がっていたが、そこからリザードマンが姿を現した。直立歩行する大きなトカゲが円盾と片手剣を装備している。
不意の遭遇戦に神炎を放ったが盾で弾かれてしまった。お返しとばかりに距離を詰め振るわれた剣を懐から取り出した扇子で受け流す。
「後衛職の妾に接近戦は勘弁して欲しいのじゃがな」
距離を取って戦おうにも迷宮ステージなので横巾はそう広くない。自然と後退する事になるのだが、リザードマンもそれは熟知しているのか盾を翳して距離を詰めて来る。
「そんなに接近戦所望するなら、これでどうじゃ?」
俺は横薙ぎに振られた剣を跳んで躱すと壁を蹴って反対側の壁に跳ぶ。更に壁を蹴り反動を付けてリザードマンの側頭部に蹴りを入れてやった。
前後の動きしか見せていなかった俺がいきなり立体的な動きを見せた為、リザードマンは完全に俺を見失っていた。
そこに横から蹴りを入れたのだから、避ける事も守る事も出来ずに蹴りを受けるしかない。頭部に強烈な衝撃を受けたリザードマンは倒れそうになる。
ふらつきながらも倒れる事は免れたリザードマンだが、その隙を逃す俺ではない。壁を蹴って跳ぶとリザードマンの背後に着地し、無防備な首を広げた扇子で切り裂いた。
頭部を切断とまではいかなかったが深く斬られたリザードマンは崩れ落ち、光と共に魔石へと変化した。
「このフィールドでは優の方が戦いやすそうじゃな」
妖狐化を解いて優に戻る。装備はトンファーを選択した。長物の斧槍では取り回しがしづらいし、双剣はトンファーに勝る利点が少ない。
先に進むと十字路になっていた。そこから進むのは迷う恐れもあるので戻る事にする。
迷宮ならば方眼紙を使えば地図も作りやすいだろうか。前世でRPGをやった際に方眼紙を使っていた記憶を思い出す。
しかし、ゲームではなく実地で迷宮のマッピングをする事になるとは。ゲームのように周囲の地図を表示する魔法とかあれば楽になるのだけどなぁ。




