第三百三十四話
週末、鶏肉を補充する為に池袋ダンジョンに潜っていた俺は肉以外の戦利品を売って売店を覗いてみた。運が良ければ斧槍のように掘り出し物が見つかるかもしれないので、ダンジョンに来ると毎回覗いている。
しかし斧槍の後は購入したいと思う武具に巡り会えなかった。三十階層付近で通用しそうな武器が無いのだ。
そんな高性能な武器はダンジョン産となるので殆ど供給が無く、使用者が引退する等で売られる場合にもオークションに出されるのが殆どだった。
例外は俺の斧槍や久川上等兵の戦鎚のような訳ありの武具だが、そんな代物はそうそう出る物ではない。
「なあ、これって双剣だよな?」
「その筈、なんですけどねぇ」
お客の質問に店員さんが苦笑いしながら答えている。何やら変わった武器か展示されているようだ。
「柄が九十度曲がって付いてる双剣なんて初めて見たよ。こんなのどうやって使うんだ?」
「それが分かればもっと高値が付きますよ。これ、オリハルコン製ですよ」
面白そうなので俺も見てみる事にした。それは少し剣身が短い双剣なのだが、お客が言う通り柄の部分が曲がって付いている。」の長い所が刃で短い所が握る柄の部分だ。
「どうです、今なら年末特価で特別に二割引ですよ」
「いや、二割引でも使えない剣なんて買わないよ」
変わった双剣を見ていた客は笑いながら去って行った。売り損ねた店員は盛大なため息をつく。これを売ろうとあの客に集中していたので、近くに来た俺には気づいていない。
「それ、オリハルコン製って本当ですか?」
「えっ、は、はい。正真正銘間違いなくオリハルコン製ですよ。オリハルコン製の武器は探索者の憧れ、如何ですか?」
声を掛けると早口で営業トークをかけてきた。どれだけ売りたいんだと呆れてしまう。
「ああ、すいません。少々取り乱しました。これは本当にオリハルコンです。なのでこのお値段となります」
我に返った店員さんは謝罪しつつ、値段の高さを強調した。俺の見た目ではオリハルコンの武器を買えるだけの財を持っているようには見えないからだろう。
「それ、買います」
「・・・えっ?」
中々売れなさそうな商品を買うという客が居るというのに接客をせず呆ける店員。この店の従業員教育はどうなっているのかな。
「聞こえませんでした?その双剣を買うと言っています。これの残高照会してもらえます?」
狐に摘まれたような顔の店員に探索者カードを渡して貯まっている金額を確認するように促す。
「うわぁ、余裕で買える残高が・・・こんな訳の分からない武器、本当にお買い上げ下さるのですね?」
「売る側が訳の分からない武器って言いますか。大丈夫です、使い方は見当が付いてますから」
「そ、それでは・・・カードをお返しします。こちら双剣と鞘になります」
剣身を見せる為に鞘から出して展示されていたので剣と共に鞘も受け取った。俺は双剣を鞘に納める。
「お買い上げありがとうございました」
売れて嬉しいが売って大丈夫なのかと不安げな店員に見送られて店を出る。さっきの客には売り込んでいたのに、俺に売るのを躊躇ったのは年若い少年に売りつけたので良心が痛んだのかな。




