第三百三十三話 とある陸軍省にて
ここは陸軍省内部にある会議室。しかし会議室ではあるものの、折り畳み出来る長机に折り畳み椅子が並ぶテンプレな部屋を想像しないで欲しい。
ダンジョンを管理し帝国の安寧を守る陸軍の本山なのだ。椅子は全て革張りの豪華な物であり、机もお値段の想像がつかない特注の品が並んでいる。
「報告書は読ませて貰った。念の為に聞く、この記載内容に間違いはないな?」
「はっ、一切の誇張も間違いも無いと断言させていただきます」
机に置かれた報告書をトントンと指で叩きながら問うているのは、内閣の一員である陸軍大臣だ。そして緊張しながらも答えているのは関中佐である。隣には冬馬伍長も同行しているが、石のように固まっていて発言など出来そうにない。
それも仕方が無い事で、この場には陸軍大臣を筆頭に陸軍大将や陸軍中将といった陸軍の最上層部のお偉方がズラリと並んでいる。
もしこの場に爆弾が仕掛けられてこの部屋にいる人員が全滅した場合、陸軍は未曾有の大混乱に陥る事になるだろう。
「では、本当に二十七階層に到達したと?」
「それはあり得ん。情報部からはそこに到達するに必須となる資金や物資を要求されていない。それどころか二十階層後半に到達すら出来ない筈だ」
陸軍の重鎮達が口々に否定する。途中の階層にベースキャンプを設営して支援パーティーで維持し、攻略パーティーが更に潜る。それが深い階層に潜る唯一の方法なのだ。重鎮達はそれをよく理解している為、情報部の予算と装備ではありえないと断言出来た。
それは先入観による的外れな否定ではあったが、それを責めるのは酷というものだろう。迷い家なんていうぶっ飛んだスキルの存在を考慮しろという方が無茶なのだ。
「お歴々のお気持ちは理解できます。本官も同じ立場なら絶対に否定します。しかし、本官はそれを証明する事が出来ます。冬馬伍長」
「はい。皆様、これをご覧下さい。ステータスオープン!」
「ステータスだと?こ、これはっ!」
冬馬伍長に近い場所に座っていた中将がそれを見て絶句した。伍長のステータス画面には1999ダンジョンの到達階層が二十七と明記されていたのだ。
これまでにステータス画面を偽装する手段は発見されていない。看破されていないだけでそんな手段があるのかもしれないが、ここで嘘をついてもすぐにボロが出るので意味は無いに等しい。
冬馬伍長の所にお偉方が入れ代わり立ち替わり訪れてステータス画面を確認していく。誰もが例外なく驚きを顕にしていた。
「二十七階層で探索が止まったのは、地図が作成されていないからです。今後、到達階層は更に更新されていくと考えております」
関中佐の断定した発言に重鎮達の心が揺れた。多くの資金と資材、人員が必要な特別攻略部隊への支援を減らし、情報部のパーティーに回せば最高到達階層が更新されるのではないかと。
「中佐、今年度は予備費から出すしか無いのでそう多くは無理だが冬馬パーティーへの支援は出来るだけ行うようにしよう」
「ありがとうございます。そう遠くない時期に皆様のご期待に添える成果を出せると思います」
こうして関中佐は情報部の予算外からの支援を取り付ける事に成功した。それに比べたらお偉方の前に出された冬馬伍長の胃が荒れた程度は些細な犠牲だろう。
 




