第三十三話
お陰さまで連載一ヶ月にしてローファンタジー日間1位・週間1位・月間7位・50万PVという信じられない数字となりました。
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。
「この動画を見た限りでは、そちらの少年の証言が正しいように感じるのだが。何か反論はあるかな?」
監視員さんは俺が正しいとほぼ確定しているようだったが、それでも相手が反論する機会を与えた。男はどもりながらも下らない主張を始めた。
「そ、そんなガキがソロで下の階を目指していたなんて嘘に決まってます。常識的に考えて武器も持たずに四層以下に行くなんてあり得ない!」
ダンジョン動画の配信者は、殆どが六層で挫折し浅い階でしか活動出来ない連中だ。それより下に行く実力があるならば動画での収益をあてにせずとも戦利品だけで生活が成り立つ。その為面倒な配信など行う者は殆ど居ない。
「ふむ、確かに武器は所持していないようだし、防具も軽装で下の階に行く装備にしては心許ないな。魔法系スキルを持っているとしてもソロでは行くまい。支障が無ければ説明してくれるかな?」
難癖のような主張だが、不審に思ったのだろう。スキルの詮索はマナー違反なので強要はしないが出来るなら不審な点は晴らしておきたいといったところか。
「俺はヘラクレス症候群という特異体質で、生まれつき筋肉の密度が高く鍛えても筋肉は太くならずに密度が上がるので見た目は華奢なのです。こう見えて力があるので籠手で殴れば充分ですし、防具も筋肉密度が高いのでまだ必要ないのです」
「ほう、そんな症状があるとは初耳だ。どれ、ちょっと試させてくれ」
監視員さんが手を差し出して来たので握って力を込める。徐々に握力を増やしていき、監視員さんの顔が歪んだので手を放した。
「これだけの力があるなら疑う余地はないな。しかし、そんな力があるのなら幾つものパーティーに勧誘されるだろうに何故ソロなんだ?」
「今年のゴールデンウィークにスキルを得たばかりで、スキルは非戦闘系なので軍からの勧誘もありませんでしたよ」
「スキルだけで判断する弊害か。しかしまあ、君のような例外はそうそう居ないだろうから仕方ないかな」
監視員さんは疑念も解けて俺の言い分が正しいと確信したようだ。俺に向ける表情が先程よりも柔らかくなっている。
「さて、横殴りの事実は無かった訳だ。となると、君達は言い掛かりを付けて若い探索者から金品を奪おうとしたという事になるな」
「えっ、いや、これはちょっとした行き違いで・・・」
「君は帰ってもらって大丈夫だよ。こちらの二人はまだ付き合ってもらう必要があるけどね」
俺は監視員さんに礼を述べて会議室から退出した。あの二人がどのような罰を受けるのかは知らないが、完全に自業自得なので甘んじて受けてもらいたい。
「この時間から潜ってもすぐ帰るようだし、少し早いけど帰るか」
こうして初めての2222ダンジョン探索は中途半端な階層で終了した。滅多にこんな事は無いのだろうけど、やはり俺には人が少ない2015ダンジョンの方が性に合っている。




