第三百二十七話
関中佐への報告をした翌日、久しぶりに学園に行くと小さな変化がある事に気が付いた。
「滝本君おはよう。軍のお仕事大変ね」
「おはよう、林原さん。俺の勘違いじゃなかったら席が一つ減ってない?」
教室の隅に席が無い空間が出来ていた。今回のダンジョンに行く前は教室はキッチリ埋まっていた筈だ。
「ああ、愛川君が他家に養子として迎えられたそうよ。それで転校していったわ」
「半年足らずで高校生になるって時期に災難だな」
どうせなら中学卒業してから養子先に行けば手続きも楽だと思うのだが、何かしらの事情があったのだろう。
チャイムが鳴って授業が始まった。板書をノートに写しながら先生の説明を聞く。アナログな授業だが、ノートに書くという行為が記憶するのに効果があるという事で黒板は現役で頑張っている。
「滝本様が登校されたというのは本当ですの!」
昼休み、お弁当を食べていると鈴木さんが突撃してきた。おつきの二人はまた置いてけぼりになっているようだ。
「ここに居るけど、今度は何かな?」
「こんな事お頼みしてはいけないと思うのですが・・・我が家と情報部の間を取り持っていただけませんか?」
何かと思えば鈴木家と情報部の仲介をしてほしいという依頼だった。鈴木財閥ともなれば軍へのコネもありそうなものだけどな。
「言いたい事は分かります。ですが、わが鈴木家だけではなく他の財閥や華族も玉藻様に接触できないのです」
「玉藻様どころか、情報部の部長に渡りを付ける事すら出来ていませんね」
鈴木さんの言葉を遅れてやって来た鈴華さんが補強した。関中佐、前に医師会や宮内省に怒ってたから面会全て断ってるのかもしれないな。
「それは俺の一存では返事出来ないな」
「それは承知しております。ただ滝本様から情報部の部長に鈴木家が面会を望んでいるとお伝え頂けるだけで良いのです」
俺がただの軍属ならばただ伝えるだけになるのだが、玉藻でもある俺が言うと関中佐も断りにくくなるだろう。
鈴木家だけで終われば良いが、鈴木家と面会したのならうちもと他の勢力が攻勢を強める事が予想出来る。鈴木家が俺に依頼した事を突き止める者も出てくるかもしれない。
「無論タダとは言いません。お伝え頂ければそれなりのお礼はさせて頂きます」
「鈴木さん、申し訳ないがその依頼は断らせてもらうよ」
ラッキーな事に鈴木さんの方から断る口実を作ってくれた。お礼として意外そうな顔の鈴木さんにその理由を教えておこう。
「それをやると軍属の俺が鈴木家から謝礼を受け取って便宜を図ったという事になるだろう、それが明るみになった場合どうなるかは想像できるよね」
「・・・そうですね。先程のお話はお忘れ下さい」
鈴木さんは目に見えて落ち込み、鈴華さんも声をかけられない状態になってしまった。鈴木家としては方策が突きてしまい暴走してしまったのだろうな。
「ところで、護衛役の人はどうしたの?前も居なかったけど」
「護衛役・・・鈴代ですか」
空気を変える為に話題を振ってみた。前回は鈴木さん一人で来たから気にならなかったが、今回は彼だけ姿を見せないので聞いてみた。
「鈴代は遠方の遠縁から養子にと望まれて養子に入りました。当学園に通い続ける事も叶わなくなった為護衛の任も解かれております」
俺の疑問に答えてくれたのは鈴木さんではなく鈴華さんだった。




