第三百二十四話
二十七階層の確認をした俺達はダンジョンから撤退した。帰り道は冬馬伍長がずぶ濡れになる事もなく静穏な道のりだった。
ダンジョンから出て関中佐と電話し、俺は明日の朝市ヶ谷に出向く事になった。冬馬パーティーは温泉街の駐屯地で報告書を作成した後休暇となるそうだ。
空歩で高崎まで走り高崎城址公園に降りる。時刻は十六時半、既に日は落ちていて上空から降りてきた俺に気付く人は居ない。
春には満開の花が咲き誇るであろう桜並木の中に降りた俺は周囲に人が居ない事を確認して優に戻った。ここからならば高崎の駅はそう遠くない。
高崎に居る事を母さんにメールすると人数分のだるま弁当をリクエストされた。どうやらそれが今日の夜ご飯になるようだ。駅ビルの売店でお弁当を買い高速鉄道で大宮へ。在来線に乗り換えて家に戻った。
「お兄ちゃんおかえり!」
「ただいま、舞。父さんと母さんもただいま。これ頼まれただるま弁当ね」
リビングに入るなり突進し抱きついてきた舞を受け止めつつお弁当が入った袋を母さんに渡す。洗面所で手洗いとうがいをして、自室で部屋着に着替える。
「ねえねえ、お兄ちゃんは何階層まで潜ったの?」
「今回は二十七階層まで行ってきたよ。地図が無い階層まで行ったから戻って来たんだ」
だるま弁当を食べながら探索について話した。冬馬伍長がずぶ濡れになった所では笑いも起きたが、電鹿に雷撃を受けた件を話すと皆の顔色が変わった。
「電撃って、大丈夫なの?怪我してない?」
「お兄ちゃん、病院、病院行かないと!」
「ふむ、怪我や後遺症は無いようだ」
母さんと舞が慌てふためくが、父さんは俺を診断して異常がない事を確認した。母さんと舞もそれを聞いて落ち着いた。
「文字通り光の速さの攻撃だったから躱せなかったけど、威力はそうでもなかったからね。痛さよりも勝手に筋肉が痙攣する事の方が驚いたよ」
いきなり腕が動いた時は何かと思った。少しして食らった雷撃で筋肉が収縮したのだと理解が追いついたが、あれは本当に気持ち悪かった。
「大丈夫なのか?今回は怪我が無かったが、この先威力が強い攻撃を受ける事もあるんじゃないのか?」
「それは否定できないよ。玉藻は強いけど、無敵という訳じゃない。色々な事も出来るけど、限界という物はある。だからこそ冬馬伍長達と潜るんだ」
未知の階層に行ったら広範囲魔法や全体魔法のように躱せない攻撃をしてくるモンスターが居るかもしれない。眠りや麻痺といった状態異常をしてくるモンスターも居るかもしれない。
実際、八階層の迷い猫は魅了という状態異常攻撃をしてくるのだ。そんな状態異常になった時、一人では詰むような状況でもパーティーメンバーが居れば回復や撤退が可能になる。
「ダンジョンに関しては優の方が詳しいし、対策はやっているのだろうな。だから父さんは口出ししないし反対もしない。だが、必ず無事に帰ってくると約束してくれ」
「約束する。俺は必ずここに帰ってくるよ。ここが俺が帰る唯一の場所だから」
俺は何があろうと家族が待つこの家に帰ってくる。それを強く心に刻むのだった。




