第三十二話
「おい、何を騒いでいる」
喚く阿呆を無視してどう対処しようかと悩んでいると、誰かが通報したのかギルドの見張りが駆けつけてきた。男はここぞとばかりに捲し立て、ギルドの監視員を味方に付けようと熱弁を奮う。
「やっと見つけた黄金虫をこいつが横取りしたんですよ。こちらが親切でドロップ分の黄金の値段の慰謝料で穏便に済ませると言ってるのに無視されてます。横殴りの現行犯で処分をお願いします!」
「と言っているが本当かね?」
「下の階に行くために通っていたら、黄金虫が飛んで来たので払っただけです。倒すつもりもなかったのでそのまま放置して行こうとしたら因縁を付けられました」
こうしたトラブルの為に配置されているだけあって、ギルド員さんは俺の言い分もちゃんと聞いてくれた。
「そんなガキの戯言に耳を貸す必要はありません。こっちはまた黄金虫を見つけて黄金を取らないと撮影が終わらないんです。とっとと賠償させて戻りたいんですよ!」
「ふむ、動画撮影をしていたのか。ならば一部始終がそのカメラに残っているな?双方共にギルドで話を聞かせてもらおうか。おっと、そのカメラは預かる。データを消されないようにな」
ギルド員さんがもう一人の男からカメラを取り上げると、二人の顔が引き攣った。自分達が撮影していたにも拘らずそれを忘れていたのだろう。
カメラの中身を確認されれば、俺が払った黄金虫を倒そうとせず立ち去ろうとした姿が残っている筈だ。それを確認されたら自分達が言い掛かりを付けた事が証明されてしまう。
「いや、早く動画撮影を続けたいのでそれは困ります。おい、ギルド員さんに免じて今回は許してやる!」
「そうはいかんな。横殴りは明確な禁止事項だ。それを行った者を取り締まるのはダンジョンを管理するギルドの職務。知った以上見逃す訳にはいかんな」
この国においてダンジョン攻略を担当しているのは日本陸軍であり、ダンジョンの管理をしているギルドはその下部組織となっている。ギルド職員である監視員さんは立派な陸軍軍人であり、この世界の日本は民主主義ではないので前世とは比べ物にならない権力を持つ。
そんな人物に同行するよう命じられれば否とは言えない。当然ながら俺も監視員さんについて行きダンジョンから出た。
「さて、今回は動かぬ証拠があるから楽そうだ。どちらの言い分が正しいのか見せてもらおうか」
ギルドの会議室らしき部屋に通された俺達は向かい合うように席についた。監視員さんがカメラに付属しているモニターで撮影されていた内容を確認していく。
男達は冷や汗をダラダラとかき落ち着かない様子だが、俺はその様子を平然と見守った。




