第三百十九話
午後の探索では四匹の幻狐と戦った。こいつらの幻は戦闘中の付いた汚れや傷まで再現するので本体との差異がなく、迎撃するまで幻なのか本体なのか分からない。
「今日はここまでじゃな」
二十五階層への渦に到着したが、夕方になっていたので二十五階層に降りるのは明日にする。今日一日で一階層しか走破出来なかった。この調子では三十階層に行くには何日かかるやら。まあ、今回は初見だし何度も潜れば慣れて戦闘時間も短くなっていくかもしれないか。
「あの幻、何とか見分けられないですかね」
「見た目はそっくりだし、例え少々違っていてもあの素早さじゃ見抜けないわよ」
迷い家に入り、お茶を飲みながら幻狐対策を話し合う。明日は幻狐とは戦わないが、帰りにまた戦う事になるしこの先何度もこの階層を通過する事になる。
「方法は無い訳ではないがのぅ」
「玉藻様、何か対策がおありですか!」
井上上等兵と久川上等兵のやり取りを聞いて呟くと、冬馬伍長が食いついてきた。
「妾が扇を投げた時、幻影をすり抜けたじゃろう。適当な物を投げつけてすり抜ければ幻影と判断出来ると思うのじゃ」
モンスターにダメージを与えるには魔力が乗っている必要がある。故に弓矢や銃器といった飛び道具はダンジョンにおいては使用される事はほぼ無い。
しかし、ただ当ててすり抜けるかどうかを見るだけならば魔力が乗っている必要は無いのではなかろうか。俺の扇は神様謹製の為投げてもモンスターにダメージを与えられるから他の物で検証する必要がある。
「幻影を見破る事が出来れば幻狐との戦いはかなり楽になりますね」
「でも、あの素早い幻狐に何かを投げて当てるのは難しくないですか?私には出来そうもありません」
井上上等兵は素直に喜んだが、冬馬伍長は自分が実行する時の事を考えて白旗を上げた。
「単発で当てにくいなら広範囲にばら撒けば良いのじゃよ。威力を必要とせぬのじゃから、小さな砂利を沢山握って投げれば広い範囲に散るじゃろう」
拳銃の弾が当たらないなら散弾銃や機関銃で弾丸を広範囲にばら撒けば良い。
「それは名案ですね。でも玉藻様、そんな便利な方法を思いついていたのなら何故やらなかったので?」
「森の中で投げるのに適当な物が無かったからじゃよ」
森林ステージだったので地面は黒土で砂利などなく、適当な小石も無かったのでやろうにもやれなかっただけの話だ。
「水魔法使いがおれば水をばら撒くという手もあるの。粉末を撒くというのも良いじゃろう」
「玉藻様・・・そういう発想よく思いつきますね」
井上上等兵に感心されたが曖昧な笑みを浮かべて誤魔化しておいた。こういう対策は前世で読んだなろう小説で山のように見てきたからな。それが元だがそんな事は話せない。
「帰りにそれが使えるか分からぬが、次に潜る時には何かしらの準備を出来るじゃろう」
これで上手く見破る事が出来るようになれば、俺達だけでなく他のパーティーも幻狐戦が楽になる。少しでもより深く潜る為の手助けになるだろう。




