第三百十八話
二十四階層は森林ステージだった。普通車二台分くらいの幅の道を警戒しながら進んで行く。
「木々が邪魔で見通が悪いな。久川、頼んだぞ」
「了解です・・・って、十時の方向、来ます!」
気配察知スキルを持つ久川上等兵が幻狐の接近を感知した。俺達は武器を構え左手の森を注視する。すぐに木々の間を縫って幻狐が飛び出して来た。
三匹の狐は冬馬伍長と井上上等兵、そして俺に飛びかかってきた。井上上等兵が槍で突きカウンターを食らわせるが、狐は煙のように消えてしまった。俺は噛み付いてきた狐を躱し横腹を扇で切り裂いたが、こちらも手応えはなく消えてしまう。
一方、冬馬伍長は爪での引っ掻きを盾で防いだが狐は盾を足場にして更に跳躍し、方向を変え井上上等兵に飛び掛かる。
井上上等兵は既の所で躱せたが体勢を崩し、そこに着地した狐が追い討ちをかける。しかし井上上等兵を庇うように立ち塞がった久川上等兵が戦鎚の柄で引っ掻きを防いだ。
「結構重い攻撃でしたね。これは捕まえてモフるのは難儀しそうです」
「久川上等兵、休憩時に妾の尻尾をモフらせる故今は戦闘に集中せい!」
モフモフを見たらモフりたくなる気持ちはわかるけどね、素早い上に攻撃力もあり幻影で惑わせる強敵相手なのだからもっと集中してほしい。
狐は再度三匹となり、二匹が真っ直ぐ突っ込んで来たが一匹は途中で曲がり森に入ろうとする。
「あれが本体かっ!」
冬馬伍長は逃げようとする狐に注意を向けた。迫る狐が幻影ならば触れば消えるので攻撃される心配をしなくて良い。
狐が逃げて戦闘終了かと思われたが、逃げた狐は森の木に向かって跳び木を蹴って反動をつけて久川上等兵に襲いかかった。久川上等兵は戦鎚を正面に構えて攻撃を受け止めようとした。しかし狐は幻のように消えてしまう。
その間に狐の本体と幻は左右に別れて俺に飛び掛かってくる。咄嗟に右の狐に向けて扇を投擲するも、扇は狐の身体を貫通してしまう。左から本体が跳んだ。大きく開いた口で俺の首を狙っている。
「良い攻撃じゃが、妾には通用せぬな」
身体を反らして噛みつきを躱し、横を通過する狐の後ろ足を掴んで引っ張る。跳躍の勢いを殺された狐は頭から落ちて地面に鼻面を強打した。
「こうなっては何も出来ませんね」
「攻撃はされぬが暴れる力が結構強い。早うトドメを刺すのじゃ」
狐は拘束から逃れようと足や尻尾をばたつかせて抵抗したが、逃れる前に三人の攻撃を受けて魔石に変化した。俺は魔石を拾い幻影を素通りし木に突き刺さった扇を回収する。
「玉藻様、よく捕まえられましたね」
「空中では軌道を変えられぬからのぅ。速くともコースが分かっていれば何とかなるものじゃよ」
全員怪我もなく体力の消耗もそれ程では無かったので二十五階層への渦に向かって進む。更に二匹の幻狐を倒して昼休憩を取る事にした。
「この階層、落差が激しいですね」
「上手く本体に攻撃出来るかどうかで掛かる時間が段違いじゃからのぅ」
井上上等兵が言う通り、二匹目と三匹目で倒すのに掛かった時間がかなり違った。二匹目は最初に受けた攻撃を迎撃した井上上等兵の槍が本体の足を傷付け、機動力を奪われた幻狐はあっさりと倒された。しかし、三匹目は有効な攻撃が中々本体に当たらずかなりの時間と体力を奪われてしまったのだ。
俺達は迷い家で回復出来るけど、普通のパーティーは運が悪いと体力を消耗してここで引き返すなんて事になるのだろうな。




