第三百十五話
渦を抜けた先は洞窟になっていた。ライオンが出るのなら草原がイメージに合うと思うのだが、こればかりは生成された際にランダムで決まったらしいので仕方ない。
「襲ってくる方向が前か後ろに限定されるのは助かりますね」
「そうじゃな、初めて戦う相手故楽な方が良いのぅ」
特筆すべき特殊な攻撃もないし、このパーティーが遅れを取るとは思わない。しかし、データで知ったつもりで実際に戦ったら勝手が違ったなんて事もあり得る。
「お出ましじゃな。雌ライオンのようじゃ」
この階層には雄ライオンと雌ライオンが出てくるそうだが、強さはどちらも変わらないらしい。しかし雄は襲ってこない時もあるそうだ。
「野生のライオンも雄は怠けるそうですけど、そこまで忠実に再現しなくても・・・よっ!」
「そこはダンジョンの拘りなんですかね。はあっ!」
雑談しながらも赤獅子の引っ掻きを躱した冬馬伍長に井上上等兵が答えながら槍を突く。顔面を狙った突きは惜しくもかわされ、右肩の裂傷を残すに留まった。
「カエルと違って槍でも効きますね」
「だが、攻撃の威力はカエルとは大違いだ。あれは食らったら不味いぞ」
特殊な攻撃が無い分戦いやすいが、二十三階層を任されているモンスターだけあって弱いなんていう事は無い。特殊な力が無い分地力が高くなっている。
唸りをあげて様子を見ていた赤獅子が駆けてくる。冬馬伍長目掛けて大きな口を開けての噛みつきに出たのだが伍長は難なく躱した。そのまま切りつけた伍長だったが、赤獅子は伍長を無視してこちらに走ってきた。
「なっ、私を無視するなんて!」
洞窟は大人が五人程並んで歩ける程の幅で、三人が横に並んで戦おうとすると武器が味方に当たる恐れがあったので冬馬伍長と井上上等兵が前に出ていた。
そこから少し後ろに俺と久川上等兵が居たのだが、赤獅子は前の二人を無視して俺に向かうという選択をとった。
「そんな大振りな攻撃、十年続けても妾には掠らぬぞ」
モンスターといえどもライオン、攻撃手段は前脚による引っ掻きか口による噛みつきかの二択しかない。赤獅子は少しでも間合いが長い引っ掻きをしてきたが、そんなテレフォンパンチを食らうような間抜けではない。
左前脚での引っ掻きを右前方に出ながら躱し、すれ違い様懐から出した扇で隙だらけの左前脚を切断する。いきなり前脚を一本失った赤獅子はバランスを取れずに転倒した。
そこに駆け寄ってきた久川上等兵が渾身の力を込めて戦鎚を振り下ろす。胴体を強打された赤獅子は衝撃で身体が跳ねた。それでも力尽きず、何とか耐えている。
「あれを食らってまだ保つのか。しかし、これで終わりだ!」
すかさず冬馬伍長か倒れた獅子の首に剣を突き入れる。大きなダメージを負っていた赤獅子は逃げる事も出来ず、光となって魔石へと・・・変わらなかった。
「玉藻様、毛皮です!いきなりレアドロップが出ました!」
「これは驚きじゃな。よもや初めの一頭でレアドロップが出ようとは」
通常のライオンより五割増くらい大きな赤獅子が残した毛皮はかなりの大きさだった。当然重さもそれなりのある。
「レアドロップか出たのは嬉しいですが、モフモフ感は玉藻様の尻尾に遠く及びませんね」
「いや、何を比べておるのじゃ」
毛皮を拾った久川上等兵の呟きに思わず突っ込みを入れる。俺は他のモフモフと競うつもりは無いからね。




