第三百十四話
きりが良いという事で今日の探索はここまでにする。明日は朝から二十三階層に挑戦だ。
「次の階層は赤獅子じゃったのぅ」
「はい、真紅のライオンだそうです」
冬馬伍長がスマホに真っ赤な獅子の写真を表示させる。事前にモンスターのデータをダウンロードしてダンジョンでも見られるようにしてきたそうだ。
「そこまで用意周到で、何故ビッグトードの水球でずぶ濡れに・・・」
「久川、言わないでくれ」
いくらデータを集めてあっても、それを活かさなければ意味がない。まあ、次からはちゃんと自分が集めたデータを活かした戦闘をしてくれるでしょう。
「正統派のモンスターならやりやすいですね」
「多分私の剣や井上の槍も通用するだろう」
二人はビッグトードには目や口内、舌にしか攻撃出来なかったからストレスが溜まっていそうだ。でも、次のライオンならば普通に切ったり刺したりしても大丈夫だろう。
夜ご飯は茄子のチーズ焼きを作った。輪切りにした茄子を軽く焼き、とろけるチーズを乗せ中濃ソースとケチャップを混ぜたソースをかける。焼き色が付くまでトースターで焼けば完成というお手軽料理だ。
「玉藻様、美人でスタイル良くて強くて便利スキルまで持ってて料理も特級品ってチート過ぎませんか?」
「容姿その他は兎に角、料理に関しては手の込んだ物など作っておらぬが?美味しいのは茄子が絶品だからじゃろう」
実際、俺がやった事は焼いてチーズやソースをかけてまた焼いただけだ。美味しさの手柄はメイン食材である茄子による物だろう。
「充分に凄いですよ。叶うなら玉藻様をお嫁さんにして毎日食べたいくらいです」
「私達では逆立ちしても作れませんから・・・」
こら、諦めるなよ久川上等兵。頷いて同意してる二人もそれで良いのか?
「玉藻様、これは仕方がないのです。ダンジョンに潜れば食事はレーションのみとなります。また、潜らない日も寮の食堂で食べるのが普通です」
「休みの日も外出するには届出が必要ですし、態々外部に食材を買いに行ってまで料理しようと思いません」
「だから料理を覚えようという気が起きないのです」
俺が普段接している情報部の人達は行動に制限を課されていないから忘れていた。市ヶ谷に勤める文官は自由が利くが、駐屯地勤めの実戦部隊は色々と制限があるのだ。
まず前提として寮住まいで、駐屯地から出る場合には外出申請をして許可を得る必要がある。その際何処に出かけ何時に戻る申告しなければならない。
そんな面倒な事をしてまで外のスーパーに食材を買いに行かないと言われれば納得するしかない。軍人だってたまの休みは好きな事をしたいだろう。
「コンビニもありますが、生鮮食品はありませんから」
「生の果物なんて貴重品ですよ。だからこの迷い家で果物食べ放題ってとんでもない贅沢なんです」
だから三人とも果物を大量に食べていたのか。コンビニがあるならお菓子やスイーツは買えるだろうけど、生の果物は置いていないだろうからな。
「結構我慢を強いられておるのじゃな。せめて迷い家に逗留しておる時は好きなだけ果物を食べるがよいぞ」
果物くらい扱ってもと思うけど、果物だと毎日搬入しないと悪くなる物もあるだろうしそうすると保安上の問題があるのだろうな。




