第三百十一話
その後、カエルを久川上等兵が引き付けて冬馬伍長が剣で切りつけるもブヨブヨして皮膚をきりさくには至らなかった。次に井上上等兵が槍で突くが、やはり柔らかい皮膚が受け止め刺さらない。
鮟鱇のように吊るして口から水を流し込み膨らませれば切れるかもしれないが、カエルが大人しく吊るされてくれるはずもない。
「神炎で焼けば焼きカエルが出来ると思うがのぅ」
「出来れば神炎抜きでも倒しておきたいです」
今回の探索は先に進む事が目的とはいえ、神炎だけに頼って進むのでは彼女らの実力は上がらない。神炎だけでは倒せない敵が出てきた時、彼女達が何もできないなんて状況にならないようにするべきだ。
「ならば皮膚を切っておいて、そこを攻撃してみようかのぅ」
扇を両手に広げカエルに向かって走り出す。打ち出された水球を跳んで躱したが、そこを狙って舌が伸びてきた。普通ならば躱せずに絡め取られてしまうのだろうけど、俺は空歩で右に躱してカエルに迫る。
すれ違いざま扇を当てて切り裂いていく。もし鮟鱇を捌く機会があったら、この扇で切れば吊るす手間を省けそうだ。
予想外のダメージに悲鳴をあげ水球を乱射するカエル。俺は空歩で立体的に動きそれをかわしていく。
「玉藻様にかかりきりでこちらがお留守になってますよ」
「その厄介な皮膚さえ無ければ切れる!」
カエルが俺を執拗に攻撃する隙を縫って井上上等兵が切られた傷に槍を突き立てる。槍は柄の半ばまで刺さり、カエルに大きなダメージを加えた。更に冬馬伍長が傷に剣を刺し、そのまま走って傷口を広げていった。
「これでもまだ倒せぬか。大きいだけに生命力も高いのかのぅ」
「しかし間違いなく効いています。このまま攻撃を続けましょう」
しかしカエルも黙って倒される筈もなく、負傷した右脇腹辺りに集中して水球を飛ばし傷を守る。
「傷を守ってばかりでは・・・」
「左がガラ空きじゃのぅ」
カエルの意識が右側に集まった事で左への警戒はかなり薄くなった。そこを突いて久川上等兵が走り寄り戦鎚をバットのように振って叩き込む。
俺もタイミングを合わせて空歩で足場を蹴り続け加速した勢いを乗せた蹴りを食らわせる。巨体を誇るビッグトードもその衝撃を殺しきれず、ゴロゴロと地面を転がった。
「皮膚がダメなら・・・」
「ここならば!」
回転で動けなくなったカエルの目に冬馬伍長の剣と井上上等兵の槍が突き刺さる。二人の武器は皮膚の守りがない眼球を貫き致命的なダメージを与えた。
「た、倒せましたが疲れました」
「一匹倒すだけでこれだけ消耗するなんて・・・これで連戦して帰りも戦いながら戻るなんて、とても出来ないわよ」
俺達には迷い家があるから体力も精神力も完全に回復するまで休めるが、普通の探索者や軍人は休まずに連戦し帰りも消耗したまま歩き戦うのだ。
「冬馬伍長を風呂に入れんと風邪をひいてしまうじゃろう。早う戻るとしようぞ」
俺は魔石を拾うと迷い家への入り口を開いて皆と入る。冬馬伍長を風呂場へ、井上上等兵と久川上等兵を居間に行かせて紅茶を淹れる。
「ダンジョンの中で濡れてもお風呂に入って服も乾かせるなんて、私達以外の人は夢にも思わないでしょうね」
「私、もう普通のダンジョン探索には戻れないかもしれない・・・」
この快適さを知ってしまったら、普通のダンジョン探索は出来ないだろうな。今後もこのパーティーで潜れれば良いのだけど。




