第三十一話
少しして2222ダンジョンに到着した。ギルドの中は2015ダンジョンと違って人が多く活気がある。喧騒を横目に見ながら窓口でここの地図を10階まで買いダンジョンへと入った。
一階層は初体験の大部屋だった。学校の体育館より広い部屋が複数連なっている構造で、壁を利用して突撃豚を倒しやすいので人が多い。
俺は豚狩りの人達の邪魔にならないよう進み、奥の部屋から二階層へと進んだ。二階層は草原で、時折襲い来る蹴撃兎を返り討ちにしつつ三階層へ。
三階層も草原で、買った地図に従い四階層への最短ルートを進む。途中ギルドの腕章を着けた人が立っているのを見かけたが、それはこの階層にレアモンスターが出るからだ。
たまたまそのレアモンスターが突っ込んで来たのではたき落とす。ひっくり返りジタバタと藻掻く甲虫は、この階層に出る黒鉄虫のような黒色ではなく金色の体を持っていた。
黒鉄虫の特殊個体、黄金虫。特定のダンジョンで稀に見られるこの個体はレアドロップとして黄金が出る事がある。とは言っても指先程の大きさなので大した稼ぎにはならないのだが、黄金という言葉は人を惑わすのだ。
「おい、ちょっと待てよ」
黄金虫を無視してそのまま立ち去ろうとすると、息を切らせながら走ってきた男に呼び止められた。その背後にはカメラを構えながら走ってくる男の姿も見える。
「お前、俺達の獲物を横取りしようとしたよな。落とし前付けずに逃げるつもりか?」
「俺は向かってきた虫を払い落としただけだが?それを批難される謂れは無い」
どうやらあの黄金虫を追ってきたらしいが、俺としては邪魔な虫を払ったに過ぎない。横取りするつもりなんて無かったし、もしそのつもりなら払っただけでなく止めを刺していた筈だがそれをしていない。
「そんな言い訳通用しないぞ。お前に横取りされて得られなかった黄金の損害、キッチリ支払ってもらうからな」
「そ、そうだぞ。お前の行動は録画している。動かぬ証拠もあるからな!」
最初の男に加えて遅れて走ってきた男も加わり俺を責立てる。その内容は完全な言いがかりなのだが、こちらが細身な男一人なので金を巻き上げようという魂胆だろう。
「例えお前達が黄金虫を倒したとして、黄金がドロップしていたと断言出来るのか?もし確実にドロップしていたと主張するなら、そいつを倒して証明してみせろよ」
俺はまだ藻掻いている黄金虫を指差す。俺は黄金虫を倒した訳ではなく払っただけなので、当の黄金虫はまだ存在しているのだ。
「えっ、倒していなかったのか・・・」
俺が黄金虫を倒したと思い込んでいた二人は気まずそうに顔を見合わせる。そうこうしている内に体勢を立て直した黄金虫は飛び去ってしまった。
「あっ、お前のせいで逃がしたじゃないか。やはりお前に金を払ってもらうぞ!」
尚も金を払えと捲し立てる二人に対して、ため息を吐いてしまった俺は悪くないと思う。




