第三百七話
「井上、行くよっ!」
「はい、伍長!」
冬馬伍長と井上上等兵がゴーレムに向けて走る。迎撃の為に繰り出された右ストレートを左右に分かれて躱し、剣と槍で足を攻撃する。しかしその間合いは遠く、ダメージを与えられているとは思えなかった。
それでも足元で動き回られるのが鬱陶しいのか、ゴーレムは左右の腕を振って二人を吹き飛ばそうとする。だが、攻撃よりも回避に重きを置いている二人には掠りもしない。
「足元ばかり見ておると、頭がお留守になるのじゃよ」
空歩でゴーレムの頭上に陣取っていた俺は勢いをつけてゴーレムの後頭部に蹴りを食らわせる。攻撃に夢中になり前のめりになっていたゴーレムは蹴りを躱す事など出来やしない。
綺麗に決まった蹴りはゴーレムを前に転倒させた。そこに控えていた久川上等兵が戦鎚を振りかぶる。蹴りを食らったばかりの後頭部に今度は戦鎚が叩き込まれた。
ゴーレムは両手で身体を浮かせて立ち上がろうとするが、俺と冬馬伍長で払い再び転倒させる。そこに久川上等兵の追撃が入り、ゴーレムは魔石へと変化した。
「ゴーレムも楽勝ですね」
「久川上等兵の戦鎚が良い仕事をしておるのぅ」
やはりゴーレム系には打撃武器がよく効く。二十階層のブロンズゴーレム戦でも期待しよう。
十八階層のスタンスラッグは原付を使用してガン無視した。凹凸が少ないフィールドだったのが幸いだった。
十九階層の夫婦鶏も順調に倒していく。冬馬伍長と井上上等兵が片方の夫婦鶏の相手をし、俺がもう片方の夫婦鶏を蹴りで久川上等兵の方に叩き落とす。落とされた夫婦鶏は戦鎚の重い一撃でほぼ瀕死となり、駄目押しで俺が放った神炎により焼き鳥となる。
後は四人で残った夫婦鶏をタコ殴りする展開となり、夫婦鶏は逃げる事も叶わず光となって消えていく。
「玉藻様、また鶏肉です!」
「今日は運が良いのう。二つも出るとは思わなんだ」
鶏肉もゲットし、二十階層に降りる渦の手前でお昼ご飯にする。夫婦鶏のチキンステーキは美味しくてご飯が進む。付け合わせの人参とじゃが芋は当然迷い家産の採りたてを使用した。
金属がぶつかる甲高い音が響く。十七階層同様ブロンズゴーレムを転倒させ久川上等兵が戦鎚の一撃を与えたのだが、その固さにより打撃を加えた久川上等兵の腕にまでダメージが入ったようだ。
「くっ、近付けない!」
「冬馬伍長、無理をするでない!」
ゴーレムと同じように立ち上がるのを阻止しようとした冬馬伍長は、近づこうとして振り払われた腕に邪魔され阻止する事は叶わなかった。
「挽回したい気持ちは分からぬでもないが、二の舞になっては元も子もないぞえ」
前回冬馬伍長はこいつに重傷を負わされここで撤退という憂き目に遭った。それを払拭しようと張り切る気持ちは分かるが、また怪我をしては元も子もない。
妨害を振り払い立ち上がる事に成功したブロンズゴーレムは久川上等兵に向かい走り出す。彼女の鎚が脅威になると判断したのだろう。
「久川、避けろっ!」
冬馬伍長が叫び、俺は目眩ましの為にゴーレムの顔面に神炎を放った。神炎は狙い違わずブロンズゴーレムの顔面に炸裂し焼いていく。
「・・・玉藻様、これ、終わってません?」
「・・・終わったようじゃのぅ」
ブロンズゴーレムは顔の炎を消そうと両手で払うが、そんな事では消えたりしない。神炎はそのまま顔面を溶かし、ブロンズゴーレムは魔石へと変わったのだった。




