第三百五話
さて、免許の問題は無視するという事で決着がつき、いざ運用!と思ったのだが。
「玉藻様、原付運転出来るのですか?免許が無いという事は運転した事無いですよね?」
「無免許運転なぞせんから、運転した事は無いのぅ」
前世では四輪の中型免許を持っていたから原付の運転も可能だったが、原付を持っていなかったし軽自動車を愛用していたから前世でも原付を運転した経験は無い。
「それでは操作方法も・・・」
「うむ、全く知らぬ!」
これで原付をダンジョンで運用しようと言うのだから笑うしかない。しかしやるしかないので、呆れる三人に運転方法を教わって練習した。
「うわぁ、原付ってあんな事出来るって知らなかった」
「公道であんな運転する人なんて居ないわよ」
十分後、俺は手足のように原付を操る事が出来るようになっていた。アクセルなどの操作系を覚えてしまえば楽だった。
長年舞踊をしてきて重心の制御はお手の物になっている。曲がる時の重心移動のコツはすぐに習得する事が出来た。
「ダブルアクセルまでは完璧じゃがトリプルはまだ安定しないのぅ」
「玉藻様、原付で二回転半や三回転ジャンプをする人はいません」
普通の操作は出来るようになったので、地面の凹凸を利用したジャンプとジャンプ中に回転を加える練習をしていたらまた呆れられてしまった。
「待たせたのぅ、そろそろ行くとしようぞ。して、井上上等兵と久川上等兵はそれを持ったまま運転出来るのじゃろうか」
井上上等兵は槍を持っているし、久川上等兵は戦鎚を持っている。それを持ったまま原付に乗れるのかな?
「ちょっと難しいですね」
「片手運転は出来るのですが、流石に重心がずれるので・・・」
冬馬伍長は片手剣なので鞘にしまっていれば問題なさそうだが、井上上等兵と久川上等兵は武器を持ったままの運転は無理そうだ。
「では原付を運用する階層では二人の武器を迷い家に置いておくしかないのう。なに、浅い階層ならば妾の神炎だけで充分じゃよ」
二人は戦闘せずにただ付いてくるだけとなるが、浅い階層ならば戦闘に参加しても訓練にもならないだろう。
出だしでもたついてしまったが、その後は順調に進む事が出来た。先頭を俺が走り、二列目に井上上等兵と久川上等兵。最後尾に冬馬伍長という隊列で進む。
敵が来たら神炎で瞬殺し、魔石を拾って進む。その時止まるのが面倒だが、魔石を拾うのは資源を得るだけでなく氾濫防止の意味もある。小さい魔石だからと拾わず進むという選択肢は無い。
「自分の足で歩かなくていいって凄く楽」
「戦闘もしてないし、ダンジョン探索がこれで良いのでしょうか」
魔石を拾うだけの井上上等兵と久川上等兵が罪悪感を感じているようだが、楽ならそれに越したことはないので慣れてほしい。道中で体力を温存出来て時間も短縮出来るのならば到達階層を伸ばす事が出来るのだから。




