第三百四話
子爵家の騒動も何とか終息し、二学期の期末試験も無事に乗り越える事が出来た。ダンジョン探索で休んだりした割には成績が落ちなかったのでホッとしている。
そして十二月に入ると冬馬伍長が完治しリハビリも終えたと関中佐から知らせが来た。今年中にもう一度ダンジョン探索を行えないかと打診されたので大丈夫だと返信しておいた。
次の探索は今までと違った形となる。まず、今回から玉藻も積極的に戦闘に参加する。玉藻が参加してどこまで潜れるか確認するのだ。
次に、関中佐が用意した原付き(原付)を持ち込み運用試験をする事になっている。四輪車では乗降に手間がかかる為、手軽に乗降出来る二輪車を使う事となった。
最後に、今回は前回よりも先に進めるだろうから俺が到達した階層の二十一階層を越える可能性が高い。なので俺も未経験のモンスターを相手にする事になる。
冬馬伍長達も事前に下調べをすると思うが、俺も二十二階層以降のモンスターのデータを確認しておく。どんなモンスターか知っておくだけでも違うだろう。
今回潜るのも水中村のダンジョンだ。ギルドだった建物は軍の管理下に置かれているし情報部員以外は来ないのでやりやすい。
「玉藻様、ご迷惑をおかけしました」
「冬馬伍長、無事に完治したようで何よりじゃ」
当日、元ギルドの建物に入ると冬馬伍長が元気な姿を見せてくれた。動作や重心の掛け方に異常な所は無さそうなので、後遺症なども全く無さそうだ。
「ところで、今回はこの原付き(原付)を運用するとお聞きしましたが実用に足るのでしょうか?」
「普通ならば不整地の階層で使えなくなるがのぅ、迷い家を使えば使える階層だけ使うという芸当が出来るのじゃよ」
「ああっ、成る程。それは気づきませんでした。流石は玉藻様です!」
三人は口々に褒めてくれるが、俺も舞に言われるまで頭から抜けていたからな。思い込みというのは本当に恐ろしい。
まずは迷い家の入り口を開き、入るのに邪魔にならない場所に四台の原付き(原付)を停める。ギルドからダンジョンの入る通路は氾濫対策で狭くなっている場所があるので、原付に乗ったり転がして通るには通りにくい箇所がある。
準備が終わったので各々装備を確認してダンジョンに入る。渦を抜けてすぐに突撃豚が襲ってきたが、井上上等兵の槍の一突きで魔石へと変わった。
他に突撃豚が近くに居ない事を確認して迷い家への入り口を開き、停めていた原付を出す。
「玉藻様、原付き(原付)の免許お持ちなんですか?」
「・・・持っておらんかった。まあ、ダンジョン内部の事じゃし道路交通法に違反するとは言われんじゃろ」
久川上等兵の突っ込みに無免許だったと気が付いた。ダンジョン内の道を地上の道と同じに扱うのかどうかなんて考えた事もない。ダンジョン内部で車両に乗るなんてほぼ無いので、それに適応した法律も無いと思う。
「ここには我々しか居ません。無免許でも問題はないでしょう」
ダンジョンの中でパトカーが巡回していたり速度違反の取締なんてやっていないだろうから、バレる事も無いだろうし良い事にしておこう。




