第三話
この世界では14歳の誕生日にスキルを獲得出来る。最低一つ、多い人で三つらしい。戦闘に有利なスキルを得た者はダンジョン探索で活躍出来るため勝ち組と言われる。
お父さんは「診断」というスキルを授かり、接触する事で相手の状態を診断でき触る長さで詳細も知れるというものだった。
お母さんを溺愛しているお父さんは毎日お母さんを診断していた為、妊娠した事も双子である事も受精卵が上手く分裂出来ず流れるだろう事も知っていた。
なのにいきなり2つの受精卵が合体して成長しだしたのだから腰が抜ける程驚いたらしい。そんな紆余曲折の果てに俺が産まれた。
失われる筈だった命が助かった事に浮かれた両親が自重しなかった結果、2年後に舞という可愛い妹が授かったという次第。因みに、嫁に行く時の条件は相手が俺を倒す事なのは言うまでもない。
「むにゃむにゃ・・・にいにぃ、お稽古終わった?」
「おお、終わったぞ。この後はずっと舞と居られるからな」
起きたばかりで半分眠った状態の妹に両手を広げて待機する。舞は起き上がると俺の胴体にしがみつき顔をこすりつけた。
本来ならば俺は幼稚園に通う歳になっている。しかし、ヘラクレス症候群の影響で力が強い為間違えて他の児童に怪我をさせては不味いという事で通っていない。
「にいにぃ、絵本読んで」
「いいぞ、どれがいいかな?」
舞にせがまれるまま指定された絵本を一緒に読んでいく。言語は前世と変わらないのでその点も助かっている。
夕方、診察を終えた両親と夕食を食べる。食品も前世と変わらない。これがヨーロッパ世界に転生していたらどんな食生活になっていた事やら。
「ニュースです。獣王率いるパーティーの『野生の王国』が品川ダンジョンの20階を踏破しました。これにより日本のダンジョン最深階が更新され・・・」
つけたままのテレビからダンジョン関連のニュースが流れる。しかしダンジョンとは縁が薄い一般人にはどこか遠くの国の話のように聞こえる。
この世界にはアイテムボックスやストレージといった代物は存在しない。マジックバッグも同様だ。なのでダンジョンで使う物資は各々が運ぶ必要がある。
深く潜ろうとすれば飲料や食料が必要だが戦闘要員は手ぶらが望ましい。となれば荷物持ちが必須となるが、非戦闘員を守る必要もあり守備要員を増やせば必要物資も増える。
必要物資が増えれば荷物持ちも増え、彼らを守る守備要員も増えてとイタチごっこになってしまうのだ。そのため前世の感覚では浅いと感じる20階前後が世界での最深層となっている。
そんな状況を打開するために俺が転生させられた訳だが、ヘラクレス症候群のお陰である程度の戦闘力は確保されている。後は14歳で授かるスキル次第なのだが、こればかりは天に任せるしかないのだった。