第二百九十八話 医師会本部にて
「さて、滝本医師。君は何故呼ばれたのか分かっているかね?」
「いいえ、見当もつきませんね」
日本医師会の本部にある会議室。そこに医師会の理事を務める者達が優の父親である滝本医師を呼び出した。
「君には重傷者を見捨て死に追いやった嫌疑がかけられている」
「重傷者を見捨てたですと、そんな事をした覚えはありません」
滝本医師の反論に理事達の反応は二つに分かれた。ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて嘲笑する者と顔を顰める者だ。
「君は先日起きた高速道路での事故において現場に居合わせ、治療行為を行った。間違いないな?」
「はい、確かに私は事故に遭遇し負傷者の治療を行いました。事故の生存者には治療を施しましたが?」
「その際、一人の重傷者が治療をされず亡くなったとご遺族からの告発が為された。心当たりがあるのではないか?」
心当たりがあるかと問われれば、無い訳ではなかった。あの事故での犠牲者はただ一人。暴走して事故の原因となった車両の運転手だけだった。
「確かに私はあの車両の運転手の治療は行っていません。しかし、それは手遅れとなった者より確実な生存者を優先した結果です」
「ほう、では君は該当者の負傷の度合いを確認した上で手遅れとして治療をしなかったと?」
「待て、警察からの資料映像を見るに運転席を確認するまでもなく生存は絶望的だと判断せざるを得ない」
滝本医師を問い詰めていた理事に対し、先程顰め面をしていた理事が反論する。尚、その描写に関しては当作品の更新時間が昼食時なのを鑑みて自粛しております。
「それだけ酷い状態であったなら、尚更確認と治療が必要だったのではないかね?最も命の危機に瀕している者だと医療知識がない者でも分かりそうなものではないか」
「お言葉ですが、私の手持ちの治療器具は応急処置がやっとの簡単な物でした。万が一運転手が生存していたとしても命を繋ぐ治療は出来なかったでしょう」
医師がいるからと言ってどんな傷でも治せる訳では無い。負傷の度合いによって必要な器具と設備が無ければどうしようもないのだ。
「君は往診の依頼を受けた帰りだったのだろう、相応の器具を持っていたはずでは無いのか?」
「滝本医師は入院している患者の診断に呼ばれた。充分な治療器具と設備が整っている場所に行くのに大仰な治療器具を持っていく理由はない」
執拗な質問に顰め面をしていた理事の一人が反論した。どうやら理事達は往診について詳しく知っている者と知らない者とに分かれているようだ。そして知らない者が滝本医師を糾弾し、知っている者が庇うという構図になっている。
「だからと言って事故に巻き込まれた哀れな被害者を放置し事故の原因を作った運転手の治療を優先するなど人道に反すると思わんかね?」
「あの事故の原因を作ったのは死亡した運転手の筈だ。事実を捻じ曲げるおつもりか?」
今の発言により、糾弾している側は青木子爵家に阿っている事が判明した。滝本医師を擁護しているのは敵対している派閥なのだろう。その後、呼び出された滝本医師は放置状態となり両派閥の言い争いが展開された。
「・・・これ、俺が居る必要あるか?」
もう帰りたい。心底そう思った滝本医師は深いため息をつくのだった。
作者「更新の時間がお昼の十二時だからねぇ」
優「作者、もう少し考えて更新時間決めろや」




