第二百九十一話
「お父さん、また来ようね。次は上級者コースでもっと沢山砂金採る!」
「そうだな、また行きたいな」
キーホルダーの砂金を眺めご機嫌な舞。俺達は既にホテルをチェックアウトし、車で高速道路をはしっている。
「あっ、あんな所に高いビルが建ってる」
「あれはリゾートマンションだよ。天然温泉に入り放題という売り文句で売り出された奴だ」
越後湯沢インター付近を通過中、ポツンと建つ高い建物を見つけた舞に俺が答えた。前世でもあったマンションなので印象に残っていたリゾートマンションだ。
「このトンネルを抜けたらお昼を食べるからな」
「谷川岳パーキングエリアだね。確かあそこは谷川岳の清水が汲めるんだよね」
ここと上毛高原駅の駅舎内に湧いている清水は汲み放題で、旅行者や飲食店経営者がボトルを用意して汲んでいく名所になっている。
長い長いトンネルを抜けて、本線から外れてパーキングエリアに入る。連休の昼時とあって結構な数の車が停まっていたが何とか空いているスペースに停める事が出来た。
「もつ煮定食にもつ煮カレー、もつ煮うどんにもつ煮そばまであるのか。凄いもつ煮推しだな」
「それならお母さんはもつ煮カレーにするわ」
母さんはもつ煮カレーを選び、父さんはもつ煮定食を。舞はもつ煮うどんを選択し、俺はカツカレーの食券を買った。
「お兄ちゃんは何でカツカレーにしたの?」
「カツカレーも美味しそうだったからね」
メニュー選定に深い理由は無かった。ただ美味しそうだったから選んだだけだった。程なくして全ての注文が揃った。
「柔らかくて美味しいな」
「カレーともよく合ってるわ」
母さんのもつ煮をカツとトレードで少し分けて貰ったが、父さんの言う通り柔らかく煮込まれていて美味しかった。
「あ、お母さん羨ましい!」
「仕方ないな、一切れ持ってけ」
食べているのは辛いカレーだが舞には甘い兄だった。自覚はあるが反省も後悔もしていない。
「お母さん、もつ煮売ってるよ」
「あら、本当ね。これは買って帰りましょう」
売店でパックされたもつ煮を見つけ、即座にかごに入れる舞と母さん。それだけで済むはずも無く、かごには笹団子や俵最中、太助饅頭といった甘味も入るのだった。
そして駐車場の脇に設置された清水を汲める場所に行ってみた。いくつか設置された蛇口のうち二つは大きなポリタンクが置かれていて使えない。多分業務用に汲みに来ている人が置いたのだろう。
別の蛇口から水を出し飲んでみる。氷水のような冷たい水が喉を流れていく。
「美味しい、これが無料で汲めるなら大きな容れ物持って汲みに来るのもわかるわ」
「そうだな、うちも空いたペットボトルに汲んでいこう」
一度車に戻り買った物を置き、中身を飲みきったペットボトルを持って戻る。ゆすいで中を綺麗にしてから水を汲んだ。
「中々に充実した旅だったな。この仕事は受けて正解だった」
水族館や金山で楽しみ、美味しい食事や甘味も食べた。母さんと舞も満足している。
「何だ?・・・うわっ、何キロ出してるんだ」
うちの車は左端の車線を制限速度で走っていたのだが、一番右の追い越し車線を凄い速さで走り抜ける車がいた。
「全く、あんな運転してたらいつ事故を起こしても不思議じゃないな」
父さんが誰でも同じ感想を持つと思われる発言をしたが、俺も全く同感だ。そしてそれはすぐに現実となるのであった。




