第二百八十九話
父さんは昼前に帰ってきた。仕事の内容は一切聞いていないが、特にトラブルも無かったのだろう。
「待たせたな、どこに行こうか?」
「水族館がいい!」
舞の希望により水族館に行くこととなった。そう遠くないし停めた車を出すのも面倒なのでタクシーを使う。水族館にはレストランもあり、そこで昼食を食べてから見学する。平日だからかレストランは昼時でも並ぶ事なく座る事が出来た。メニューを開き注文を決める。
「あっ、この笹団子セット美味しそう!」
「新潟らしいメニューだけど、食べるのはお昼御飯だからな」
舞に釘を差して俺もメニューを見る。海の近くに来たのだから海産物を食べたい。
「日替わり刺身定食にするよ」
「舞はこのカレー!」
舞はライスがイルカの形になっているカレーを選択した。父さんは麻婆麺という辛そうな麺を選び、母さんはふぐラーメンという物を選択した。
「母さん、それを選んだ理由は?」
「珍しかったからつい・・・」
どのメニューも美味しく、全員完食して水族館を見学していく。
水族館は楽しかった。沢山のクラゲが泳ぐ幻想的な水槽や可愛いペンギン達。イルカのショーもあって見所満載だった。
見学を終えると時間は三時過ぎ。他の観光名所に行くには少し遅く、このままホテルに帰るには少し早い中途半端な時間であった。
「そうだ、レストランでお茶して帰ろうか」
「やった!笹団子セットを食べたい!」
舞はお昼に諦めた笹団子セットを食べられると上機嫌になった。再びレストランに入ってメニューを開く。
「あら、これ美味しそうね。お母さんはこれにするわ」
「うっ、それも美味しそう。だけど舞は笹団子セットにする!」
舞は初志貫徹で笹団子セットを頼み、母さんはあざらしパフェというプリンにアイスやフルーツがついたパフェを頼んだ。
俺と父さんはコーヒーを選択。俺も甘いものは嫌いではないが、こういう場所で頼む勇気は持っていない。
コーヒーや甘味を堪能した俺達はタクシーでホテルに戻る。部屋のテーブルでは白とピンクのヌイグルミが鎮座していた。
「このヌイグルミは?」
「「可愛かったからつい」」
声を揃えて返答する母さんと舞。父さんが俺を見るが、俺に二人のストッパー役を期待されても困る。
「まあ、荷物になるでもないし良いか」
車で来ているので持ち帰るのは問題ない。車に乗せきれないならば迷い家にしまうという裏技もアリなのだ。
基本的に俺も父さんも母さんと舞に対しては甘い。それに二人はブランド物や宝石をねだるなんて事は一切ない。それに比べたらヌイグルミなんて可愛いものだ。
夕食前に大浴場に入り、食事後は早々に休む事にする。明日は佐渡に行くので船に乗らなければならない。
「ジェットフォイルは揺れが少ないらしいが、酔わないように早寝するぞ」
折角の水中翼船を船酔いで楽しめないのは勿体ない。体調を万全にする為に今日は皆で早めに床につくのであった。




