第二百八十七話
時は流れ新潟に出発する日となった。新潟へは順調ならば四時間掛からないらしいが、今日は連休の初日で渋滞が見込まれる。なので朝の七時に家を出た。
東松山のインターチェンジから高速道路に乗ったが、渋滞しているとまではいかなくても車が多い。段々と前が詰まるようになっていき、最低速度を下回るノロノロ運転するまでになってしまった。
「ああ、やはり渋滞に嵌まってしまったな」
「お父さん、この辺りはよく渋滞するらしいですよ」
道路脇の看板には花園インターチェンジまで後二キロと書いてあった。ここが渋滞情報で常連の花園インターチェンジ付近と呼ばれる場所らしい。
「お兄ちゃん、何で渋滞は起きるの?信号も無いのに」
「聞いた話だと、渋滞が起こる場所は運転手が気付きにくい程度の上り坂になっている場所が多いらしい。アクセルを踏む力は同じでも速度が落ちるから車が詰まっていくそうだ」
上り坂を意識させる看板を設置したりして解消の努力はされているらしいが、連休の度に渋滞が起こる事を考えると効果は薄いのかもしれない。
「花園で降りて下道を行こうにも、同じ事を考える人は多いだろうからなぁ」
「その先で渋滞が終わってたら逆効果ですしね」
花園インターチェンジの出口が見えてきたのだが、父さんの予想通りインターチェンジから出る車が列をなしていた。
「車を迷い家に入れてお兄ちゃんに空を走って貰って、渋滞を抜けたら戻せば楽なのに」
「それをやると玉藻ちゃんの正体が優ちゃんだとバレるかもしれないわね」
滝本家の車から玉藻が降りてきて迷い家に収納なんてしたら、滝本家に注目が集まってしまう。乗っている人が見えなくてもナンバーで割り出す事は可能なのだ。それに迷い家を衆人環視の中で使う訳にもいかない。あのスキルはまだ秘匿しなければならない。
「ちょっと待て。優、迷い家に車を入れる事が出来るのか?」
「やった事は無いけど多分出来るよ。普段はやらないけど迷い家の入口は結構な大きさに出来るからね」
迷い家を盾代わりに出来ると知った時、大きく開けるように訓練をしたのだ。逆に小さく開ける訓練もやったので、探索時に魔石を放り込む時に使っている。
「ならばダンジョンで車両を運用出来るのでは?」
「あっ、その手があった!」
ダンジョンに車両を持ち込む事は可能だ。しかし車両を用いて探索する人は居ないと言っていい。フィールドにより運用出来ない事とモンスターに壊されてしまうというのがその理由だ。
しかし迷い家で自由に出し入れ出来るのならば運用に適した階層だけで使用する事が出来る。それで移動に要する時間と体力を節約出来るならやってみるべきだ。
「これは後で関中佐にメールしておかないと」
「今更だけどお兄ちゃんの迷い家が便利過ぎる!」
ダンジョン内での車両の運用は現実的ではないという常識に囚われていたけど、迷い家ならば車両運用時の欠点を克服出来る。
「これは舞が言い出さなかったら思いつかなかったな。舞、ありがとうな」
「うん、お兄ちゃんの役に立てたなら嬉しい!」
モンスターの攻撃を警戒しながら移動する必要があるから、そんなに速く移動は出来ないかもしれない。それでも探索が楽になる事は間違いないだろう。




