第二百八十六話
中間試験も終わり秋の気配が深まった頃。父さんに日本医師会から往診の依頼が舞い込んだ。
「ちょっと場所が離れているから旅行がてら皆で行こうかと思うがどうかな?」
「期間も十一月の連休で優と舞も一緒に行けるわね」
今回入った依頼はいくら検査しても原因が分からない患者の診察をして欲しいと言うものだった。患者の身元は明かされていないが有力者の身内らしく、比喩ではなく拝み倒されたそうだ。
「交通費や宿泊費はあちら持ち、日程も三泊四日だが依頼さえ熟せば空いた時間は自由だそうだ」
「待遇良すぎだな、それ絶対に口止め料も含まれてるでしょ」
業務上知り得た情報を漏らさないなんて基本中の基本なのだが、更に念を押して口止めしたいご身分の人なのだろう。
「そんな訳で初日に移動と休憩、二日目に診察。三日目は観光して四日目に帰るというつもりなのだが」
「勿論行きたい!」
水中村へのお出かけ以来旅行好きになった舞が真っ先に返事をした。俺も拒む理由はない。母さんも賛成と言う事で、今度は新潟への旅行が決定した。
「交通手段は高速鉄道で行くの?」
「いや、車で行く。患者さんは入院しているから治療器具はあちらにあるが、何があるか分からないから一応最低限は持って行きたい」
あんなトラブルに早々巻き込まれる事は無いと思うが、父さんは用心深かった。流石にラノベの主人公じゃあるまいし、出掛ける度にトラブルがやって来るなんて事は無いだろう。
「かなり距離があるけど大丈夫?」
「小まめに休憩すれば大丈夫だろう。回復する時間を考えて診察を二日目にしてあるしな」
仕事を受けたのも運転するのも父さんなので、父さんがやると言う以上同意するしかない。
「お母さんも運転免許持ってれば交代出来るのにね」
「舞、人には向き不向きという物があるんだ。それを忘れてはいけないよ」
「母さん、何をやらかしたのさ」
必死に舞を説得する父さんに、あからさまに視線を逸らす母さん。詳細を聞きたいが到底聞ける雰囲気ではない。
「お兄ちゃん、鶴嘴とスコップを持って行かないとね。鶴嘴って何処で売ってるだろう?」
「舞、そんな物を何に使う気だ?」
「えっ、新潟と言えば金山でしょ。沢山掘って帰らないと」
どうやら舞は佐渡金山で金を掘るつもりのようだ。しかし、この世界でもそれは不可能なのだった。
「佐渡金山の金は掘り尽くされてるから掘っても無駄だぞ。大体、坑道は整備されて観光地になってるから掘れないし」
「そ、そんなっ!」
日本の金山はもう全て枯れている筈だ。それでも金を得るならば、海水を神炎で燃やすという手も無くはない。理論上は金以外を燃やせと念じれば、海中に含まれる金だけが残る筈である。
しかし、それだと一グラムの金を得るのにどれだけの海水を焼滅させなければならないのか。実現可能ではあるが現実的な手段とは到底言えないな。
「金を掘らないとしても佐渡金山の観光はアリだな。各自観光したい場所を調べて日程を組もう」
こうして急遽決まった新潟観光にむけて行きたい所を調べる事となった。ぱっと思いつくのは佐渡とスキー場だが、他にどんな所があるのかな。




