第二百八十五話 皇居外郭部にて
ここは皇居の外郭に位置する特別攻略部隊が本拠地としている建物。特別攻略部隊は皇居に発生したダンジョンの攻略を担当している為特別に拠点となる建物を貸与されていた。
「関中佐、それは笑えない冗談だ。もし本気で言っているならば一度頭の精密検査を受ける事をおすすめするよ」
「青野中佐、こちとら暇じゃない。下らない冗談を言いにこんな所まで来たりはしない」
応接室のソファーに座り言葉を交わすのは、陸軍に所属する二人の中佐。一人はお馴染みの情報部部長関中佐。彼に相対するは特別攻略部隊の実働隊を指揮する青野中佐だ。
「ほう、それでは本気で我々特別攻略部隊に所属する治癒スキル持ちを貸し出せと?寝言は寝てから言う物ですよ」
「これは異な事を。現在活動出来ない特別攻略部隊に治癒スキル持ちが居ても意味がないでしょう」
関中佐は負傷した冬馬伍長の治療に特別攻略部隊が抱える治癒スキル持ちを使うつもりでいた。トップである緒方少将が地位を剥奪され機能不全に陥っている特別攻略部隊は探索を行う事も出来ない。
ダンジョンに潜らないならば怪我人が出る事もなく、治癒スキル持ちは熟すべき仕事が無いという状態なのだ。
「活動出来ないのはどなたのせいですかな?そんな寝言をほざいていないで一刻も早く緒方少将を釈放されたい」
「それは無理な相談だな。彼が元の地位に戻る事は、いや、軍人として任務に就く事は無いだろう」
どうやら青野中佐は緒方少将が何故囚われているのかを知らないようだ。関中佐は懐から小型録音機を取り出して音声を再生した。
「これが緒方少将が捕縛された理由だ。陛下自らが神の使徒とお認めになった玉藻様への暴言、許される事だとお思いか?」
「こっ、これはフェイクでは・・・」
「何ならデータのコピーを渡しましょうか?解析すれば本物か偽物かはすぐに判明するでしょう」
こうも自信満々に言われコピーを渡すとまで言われれば偽物とは思えない。情報の専門家である関中佐が簡単にバレる嘘をつくとは考えられないからだ。
そして緒方少将の奪還も難しくなる。法による規定がある訳では無いが、神の使徒となれば皇族に匹敵するかその上の立場となる。そんな存在に暴言を吐いたとなれば無罪放免はまずあり得ない。
「そっ、それならば銀河大将の正式な命令書を持ってきて欲しい。横紙破りを認める訳にはいかん」
「それは構わないが、この要請は君達の為を思っての物だぞ?先程の録音で玉藻様に言われていただろう、特別攻略部隊を敵とみなすと」
関中佐の反論に青野中佐は言葉を無くした。録音の中で玉藻は緒方少将個人だけでなく特別攻略部隊という組織そのものを敵と認定したのだ。
「玉藻様と軍との窓口は我々情報部だ。その情報部に特別攻略部隊が自ら協力したとなれば玉藻様の心象も少しは良くなるかと思ったのだが・・・いらぬ気遣いだったようだ、正式に依頼をするとしよう」
「ま、待て!分かった!直ちに治癒スキル持ちを派遣するから玉藻様に上手く取りなしてくれ!」
「そうか、それは助かる。玉藻様には特別攻略部隊は快く治癒スキル持ちを派遣してくれたと、非常に協力的だったと伝えよう」
こうして関中佐は特別攻略部隊に借りを作る事なく治癒スキル持ちを派遣させる事に成功したのだった。




