第二十八話
迷い猫はまず、可愛い姿で戦意を奪う。探索者を戸惑わせて接近すると体を擦り寄せ無害だとアピールを重ねてくる。撫でられても抱き上げられても抵抗もしない。そして探索者は混乱にかかり、迷い猫を守り仲間の探索者を攻撃するようになるのだ。
可愛い子猫を倒す罪悪感を乗り越えねば先に進めないという鬼畜な所業。これもありダンジョン攻略が進まない。戦闘力は充分でも、精神的な攻撃に耐えられない者もいるのだ。
前世と今世を通じてモフラーな俺にもかなりキツイ試練ではあるのだが、だからと言って女神様との約束を反故には出来ない。
心のなかで血の涙を流しながらも迷い猫を焼いていった。因みに、迷い猫のステータスは本物の成猫と同等なので倒すのに苦労はしない。
ステータスの探索実績に反映させるため男性に戻って迷い猫数匹を倒し、その後妖狐に戻り来た道を戻る。四階層で男に戻って戦利品を売却。家に帰った。
妖狐に戻った理由はゴブリンと接近戦をしたくないからだ。アレと接近戦するなんて御免被る。
翌朝、日課を終わらせて朝食を取ると駅に向かい家を出た。今日は検査を受けるので、電車で一時間程かかる街に行く。
俺が住む町にもそれなりの大きさの病院はあるのだが、折角なので徹底的に調べたいとの事で大きな病院がある街に出向く事となった。
「なぁ、あの娘可愛くないか?」
「ああ、ボーイッシュな格好だけど、可愛さは全然隠せてないな」
登校中の男子学生が俺の方を見てヒソヒソと話している。男物の服を着ているのだから、素直に男だと認識してほしい。
「私、同性でも良いかなって思ってしまったわ」
「あれは無理ないわ、絶対に宝塚からスカウトされるわね。今のうちにサイン貰おうかしら。あっ!」
ブレザーを着た女子高生二人組まで不穏な事を言い出したので、別の車両に移動する。これは逃げたのではない、戦略的な撤退なのである。
ヘラクレス症候群は強い力を得るというメリットはあるが、見た目の筋肉の量が増えず線が細くなるというデメリットもある。
メリットがある以上デメリットも受け入れなければならないと理解はしているのだが、感情がそれに付いてこない。せめて女子と間違えられない程度の筋肉は付いてほしいと望むのは贅沢だろうか。
等と悩んでいるうちに総合病院の最寄り駅へと到着。ICカードを翳して改札を抜けると、事前にスマホで調べておいた道を辿って総合病院に向かう。
特にイベントもなく辿り着き、総合案内で父さんに渡された紹介状と保険証を兼ねているナンバーカードを渡す。俺の名前を確認した事務員さんはそれらを俺に返すと、内線電話でどこかに報告した。
「滝本さん、教授が診察されるそうです。この部屋に行って下さい」
事務員さんの指示に従い通路を歩く。少し離れた場所にある教授の部屋では、白衣を着た女性が扉の前に立っていた。




