第二百七十七話
夫婦鶏との戦いを繰り返し安定して勝てるようになった冬馬パーティーは、満を持して二十階層へと足を踏み入れた。
「ブロンズゴーレムは普通のゴーレムより固くて速い難敵じゃぞ」
ここまで順調に来た冬馬パーティーに注意を促す。程なくしてブロンズゴーレムと接敵し、冬馬伍長と井上上等兵が並び後ろに久川上等兵という陣形を組んだ。
「油断するでない、来ておるぞ!」
知識として速いと知ってはいたものの、普通のゴーレムのイメージが強く残っていたのだろう。想定より早く間合いを詰められた冬馬伍長は不完全な体勢でブロンズゴーレムのパンチを受ける。
「ぐうっ、重い!」
冬馬伍長は何とかバックラーで受けたものの、勢いに負けて後ろに飛ばされてしまった。その隙に井上上等兵が槍で左足の膝を狙って突きを繰り出す。
槍は見事に膝関節へと突き刺さったが、先端が少し入った程度で効いているようには見えない。しかし刺された感覚はあったようでブロンズゴーレムの意識が井上上等兵に向いた。
背後にいた久川上等兵はそれを見逃さず、走り寄るとその勢いを乗せて戦鎚を振りかぶる。バットのように水平に振られた戦鎚は右足の膝にクリーンヒットした。
これは流石に効いたようで、ブロンズゴーレムはたまらず膝をつく。そこに井上上等兵が目を狙い突きを繰り出した。
しかしブロンズゴーレムはまだ井上上等兵に注意が向いていた為、左腕を薙ぎ払い迎撃してきた。突きのモーションに入っていた井上上等兵は躱す事が出来ない。
咄嗟に迷い家を発動しブロンズゴーレムの腕を止めた。それを見た久川上等兵は戦鎚を振り上げてブロンズゴーレムの右膝に追撃をかける。
連続で渾身の一撃を関節に食らい、頑丈なブロンズゴーレムも耐えきれなかったようだ。細くなってる膝関節から下はポッキリと折れてしまった。
ブロンズゴーレムの機動力を封じる事に成功した二人は一旦後ろに跳んで距離を空けた。焦らず体勢を立て直す事を選択したのだ。
しかし、今回はそれが仇になってしまった。ブロンズゴーレムは折られた右足を掴むと久川上等兵に向かって投げつけた。
ゴーレムが飛び道具で攻撃してくるなど思ってもいなかった久川上等兵は驚き対処する余裕がない。迷い家を発動しようとしたその時、久川上等兵の前に冬馬伍長が飛び込んできた。
彼女は久川上等兵に被さるように押し倒し、投げられた足を躱す事に成功した。そして素早く立ち上がりブロンズゴーレムを警戒する。
「伍長、助かりました」
「私も最初にミスしたからな。これでチャラにしてくれ」
立てなくなったブロンズゴーレムは腕を振り回して応戦したが、そんな攻撃はここまで来れた三人に通用する筈がない。
冬馬伍長と井上上等兵がチクチク攻撃してブロンズゴーレムの気を引き、隙を突いて久川上等兵が戦鎚で高い威力の攻撃を当てる。
時間はかなりかかったものの、何とかブロンズゴーレムを倒す事には成功した。中々の大きさの魔石を拾い迷い家に入る。
始めに飛ばされた冬馬伍長は背中を強く打っていたようだ。お茶を淹れて居間に入ると井上上等兵が伍長の背中に支給品の湿布を貼っていた。
その後戦えていたが、悪化する可能性もある。今回の探索はここまでにするのが良いかもしれない。




