第二百七十四話
十五階層のサラマンダーは前回も倒している相手だ。装備が良くなった三人は吐かれる炎や尻尾による攻撃も見切って戦い、俺が支援する事なく通る事が出来た。
しかし体力の消耗は激しいので十六階層に降りる渦の手前で一泊する事に。突撃牛のステーキと迷い家産温野菜をお腹いっぱい食べた三人は、満足そうにお腹を擦っている。
「ステーキも美味しかったですけど、付け合せの温野菜がまた美味しくて手が止まりませんでした」
「野菜ジュースも美味しくて、ついついお代わりを・・・」
「トドメのデザートが季節無視のフルーツ盛り合わせ。胃が七つ欲しいと切実に思いました」
夜なら食べすぎても後は寝るだけだから止めなかったが、明日まで影響したりしないだろうな。
「明日の朝は軽い物にした方が良かろうな」
「大丈夫です、朝までにはしっかりと消化してみせますから!」
冬馬伍長の反論に井上上等兵と久川上等兵も頷いて賛意を示す。ちゃんと動けるなら構わないのだが。
翌朝、ニジマスの塩焼きに茄子のお浸し、大根とじゃが芋の味噌汁というシンプルな朝食を食べてダンジョン攻略に向かう。
次は前回苦戦した群れ狼戦だが、井上上等兵と久川上等兵は武器が変わった事により立ち回りがガラリと変わっていた。
井上上等兵は飛びかかる攻撃には突きを合わせて迎撃し、走って来たら薙いで接近を拒んだ。薙ぎを跳んで躱されると噛みつきや引掻きを柄で受けて、そのまま押し返して突きを食らわせていた。
久川上等兵は無理せず攻撃を防ぐ事を優先し、反撃する時は小さな振りで隙を作らない戦いに徹していた。その為膠着状態になりがちだったが、凌いでいれば冬馬伍長か井上上等兵が増援に来るので敗れる事は無かった。
「戦鎚だと素早い相手にはちょっとキツイですね」
「それは武器の相性だから仕方ない。井上の槍が大活躍したな」
休憩中のミーティングで久川上等兵が少し落ち込んでいたが、冬馬伍長の言う通り相性だから甘んじて受け入れるしかない。
「でも、次のゴーレム戦では活躍出来ますよ」
「そうじゃな、固いゴーレムには打撃武器が一番よく効くからのぅ」
井上上等兵の言葉に俺も同意する。前回は攻撃力不足でろくにダメージを与える事が出来なかったが、今回は久川上等兵の戦鎚がダメージを与えてくれるだろう。
十七階層に入る渦の手前で早めの昼食をとり戦いに赴く。十八階層への渦に向かって歩いていると程なくしてゴーレムに遭遇する事が出来た。
冬馬伍長と井上上等兵が左右に分かれて前に出る。久川上等兵は少し後ろの中央で待機した。ゴーレムは右にいる冬馬伍長へと向かっていく。
間合いに入るなり右ストレートを繰り出すゴーレム。冬馬伍長は右に躱して左足の膝に切りつけた。しかし表面が削れただけで大したダメージは与えられていないようだ。
そこに井上上等兵が走り寄り右足の膝に突きを入れる。穂先が少しだけ刺さったものの、まともなダメージは与えられていない。
それでも鬱陶しく思ったのか、ゴーレムは向きを変えて井上上等兵に向かい合う。左腕を伸ばして掴もうとするが、井上上等兵は後ろに跳んで回避する。
そこへ走って来た久川上等兵が戦鎚を横に振り回し無防備な横腹に一撃を叩き込んだ。ゴーレムは堪らず膝をつき、自身にダメージを与えた相手を睨むのだった。




